看護師の働き方は多種多様であり…
看護師は残業代が出ない?前残業・平均残業時間の実態と業務改善策
公開日:2022/12/16
最終更新日:2024/2/16
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幅広い仕事内容や人手不足から、一人ひとりの負担が大きい看護師の業務。残業時間の多さも課題として挙げられています。看護師が健康に働き続けられる環境に身を置くために、看護師の残業に関する基礎知識や実態、改善策を解説します。
目次
看護師は「残業多すぎ」?実態から働き方を見つめなおす
看護師の職場における残業の実態として、始業30分以上前に出勤する前残業で仕事の準備をしたり、定時が過ぎても仕事が終わらずに残業したり…。それらが常態化している看護師は決して少なくありません。しかも、それら残業に手当が出ないことが当たり前になってしまっていることもあるようです。多すぎる残業時間やサービス残業は違反行為であることが、しっかりと法律で定められています。まずは残業に関する実態を見ていきましょう。
看護師の労働環境データ
看護師が多く働く病院では、医療や看護は24時間365日提供されるものであり、夜勤を含めた勤務交代制勤務をとっています。基本的に勤務交代制は時間で業務を引き継ぐことが前提となっていますが、看護師の場合には日勤や夜勤とも残業が発生している状況です。日本看護協会では、2019年に『病院および有床診療時における看護実態調査』を実施。その結果、長時間労働の常態化と業務開始時刻前から業務を始める前残業、持ち帰り業務や勤務時間外の研修など、カウントされない時間外労働、未払いの残業問題などが明らかとなりました。これにより、業務開始前残業や持ち帰り業務、勤務時間外での研修参加も含めて、所定労働時間に取り込むことや時間外として申請できるような動きが出てきました。
看護師の平均残業時間
日本看護協会が公表している『2019年病院看護実態調査』のなかで残業の状況としては、正規雇用のフルタイム勤務の看護職員について、2019年7月の1か月における一人あたりの月平均の超過勤務時間数は「1~4時間未満」が29.1%で最も多く、次いで「4~7時間未満」が21%、「7~10時間未満」が13.6%で、平均は5.2時間でした。前残業に関しては、時間外勤務として「扱っていない」が62.9%で最も多く、次いで「扱っている」は21.5%、「前残業の実態はない」が12.4%という結果でした。また、時間外に院内での研修参加は時間外として「一部扱っている」が49.3%と最も多く、次いで「扱っていない」が26.4%、「扱っている」が21.8%でした。
コロナ禍の状況も含む『2020年の病院看護実態調査』では、正規雇用看護職員の2020年9月における1人あたりの月平均超過勤務時間は、「1~4時間未満」が34.7%で最も多く、次いで「4~7時間未満」が20.7%、「0時間超~1時間未満」が12.2%でした。平均は4.4時間でした。
2020年9月の正規雇用看護職員超過勤務時間
【参考】日本看護協会『2020年の病院看護実態調査』
ただ、看護師は実際の時間外労働をそのまま申請するのではなく、少なく見積もって申請している結果もあります。実際には調査結果の平均残業時間よりも多い可能性も推測されます。
【参考】日本看護協会『就業継続が可能な看護職の働き方の提案』
時間外労働の月45時間規制に対する病院の取り組み
看護職員のみならず一般労働者における時間外労働の規制としては、月45時間が上限と定められています。2019年9月時点の調査ではこれに対して「対応済み」は74.9%、「検討中」が11.3%、対応を準備中が10.1%となっています。実際の取り組みとしては、業務改善や他職種への業務を移譲、看護職員の人数を増やすなどで対応しているところが多いようです。
アンケートから見る看護師の残業事情
ナース専科が実施した残業に関するアンケートでは、以下のような回答があげられました。
残業は当たり前?「残業なし」の看護師は2割弱
「残業なし」と回答した看護師は2割弱(16.72%)。「残業することが多い(43.90%)」「残業することが少しある(38.68%)」が大半を占め、看護師の残業は当たり前になっていることがわかります。
月々の平均残業時間は「5時間以下」が最多
月の残業平均時間は「5時間以下(30.38%)」と回答した人が最も多く、次いで「11~20時間(24.05%)」「6~10時間(23.21%)」「21~30時間(10.13%)」と続きます。「31~40時間(5.91%)」「41~50時間(3.80%)」という長時間残業の回答も。中には「80時間以上(0.84%)」と回答した人もいました。
「前残業」はほぼ約8割の看護師が経験
始業時間前に準備や情報収集等を済ませてから始業時間を迎える人が多く、約8割に及ぶ看護師が前残業があると回答しました。
約半数の看護師が「残業代」が支給されないことも
8割以上の看護師が残業をする実態があるなか、残業代が支給されないことが「まったくない」と回答した人は2割にも及びません。残業代が支給されないケースは多発しているようです。
残業時間が増えるのはなぜ?原因を分析
病棟での勤務はスケジュール通りにいかない仕事が多く発生します。急変や緊急入院、手術などで時間が読めない、またはその日の業務だけではなく、委員会や研修など看護業務以外にやるべきことも多くあります。ほかにも、そもそも人手不足で業務過多であることや、職場によっては事務仕事や介護仕事なども看護師がやることになっている、効率の悪い申し送りやチェックリストが多い、管理者のマネジメント不足でスタッフの業務量や進捗状況を把握できていない、適切な対策を講じていないなど、さまざまなことが考えられます。さらに、長時間労働や残業を良しとする文化が未だに根強く残っていることも原因のひとつかもしれません。例えば、前残業で新人看護師が早くに出勤して病棟の清掃や準備、情報収集をするなど、なかば通例化している状態も関係していると考えられます。
サービス残業が多い業務と職場環境
医療連によると、サービス残業が多い主な業務は「記録」「情報収集」などのデスクワークや、「患者への対応」であることがわかっています。また職場別でサービス残業になりやすい業務7項目(記録、情報収集、患者への対応、各種委員会、研修、研修・各種委員会以外の諸会議、機器の立ち上げなど仕事の準備)の数を比べると、「集中治療室」が6項目、「一般病棟」が5項目と比率が高く、「精神病棟」と「訪問看護」は4項目であることがわかりました。
前残業は違法?労働基準法の基礎知識
前残業や定時後の残業で残業申請をさせない、残業代の未払い違法行為であると法律で決められていますが、実際どのように看護師と法律が関係しているのか、説明していきます。
労働基準法で定められた労働時間と残業時間
労働基準法による労働時間とは、休憩時間を除いて1日8時間、1週間40時間を超えてはならないと規定されています。しかし、看護師のように交代制勤務で一回の労働が8時間を超える場合には、『1カ月変形労働時間制』の適用が必要となります。
1カ月変形労働時間制
一定期間(1カ月や1年単位など)を平均して40時間以内であれば適法とされるものです。また、変形労働時間制を採用する場合には、労使協定(36協定)またはそれに準ずるものに定める必要があります。
36協定
労働基準法では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内とされています。これを「法定労働時間」といいます。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)をさせる場合には、「労働基準法第36条」に基づく労使協定(36協定)の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
36協定では「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上限」などを決めなければなりません。
サービス残業になっていないか?労働基準法違反例
どのようなことがサービス残業にあたるのか。実際に例をあげてみます。
労働基準法を違反するサービス残業例
- 前残業で30分前に出勤し、情報収集や日勤の準備をする
- 日勤業務の定時時間を過ぎても記録や患者対応があり、残業が2時間あったにもかかわらず、自分の仕事が遅いせいだと申請をせず
- 次の日は休みだったが、委員会の仕事と夕方の院内研修のために病院へ行き、1時間半参加
院内研修・新人研修、情報収集は労働時間とみなされる
職員に対する院内研修や新人研修なども労働時間とみなされ、所定の労働時間内に研修を実施するか、勤務時間外に行われた場合には時間外勤務として割り増し賃金の支給が必要となります。業務と密接に関連する院内研修を自己研鑽と位置づけて時間外勤務ではないと扱うことは、法令違反となる疑いがあります。さらに、情報収集を含めた業務の準備のための前残業も、必要な時間を所定労働時間内に組み込むか、労働時間として算入し、時間外勤務手当を支給することが推奨されています。
職場が労働基準法を違反していたら
職場が労働基準法を違反していたらどうすれば良いのでしょうか。労働基準法は労働者の権利を守るための法律であり、労働基準法を守ることは使用者(病院や事業主)の義務です。しかし、違反していた場合には、罰則が与えられる場合があります。労働基準法違反で最も重いのは、第117条の「1年以上10年以下の懲役または20万以上300万円以下の罰金」です。ここでは未払いの残業代はいつまでさかのぼって請求できるのか、労働基準法を違反する職場に個人として対策できることを紹介します。
残業代はどこまで請求できるのか
残業代申請には、これまで「2年」という時効がありましたが、当面は「3年」に延ばす改正労働基準法が可決され、2022年4月1日から適用されました。タイムカードや給与明細、就業規則、時間外労働に関する上司のメールや音声、同僚の声などを証拠として記録しておきましょう。健康を害していた場合には医師の診断書なども必要になるので忘れずに手配しましょう。
労働基準法違反に関する相談窓口へ
勤務先に通報窓口が設置されている職場もあります。まずは窓口に相談してみましょう。職場に窓口がない・窓口が対応してくれない場合は、厚労省や都道府県の労働局の相談窓口など外部機関への相談を検討しましょう。
労働基準監督署へ通報
直接訪問、電話で通報、WEBでメール問い合わせが可能です。
都道府県労働局
労働基準監督署と連動して総合労働相談コーナーを開設。労働基準監督署と同様に具体的な違反事実を伝える必要があります。
労働条件相談ほっとライン
直接的に問題解決をするところではなく、相談対応や関係機関の紹介などをする案内所です。
労働相談ホットライン
団体交渉による解決も行っています。
総合労働相談コーナーに相談
労働基準監督署よりも幅広い相談に対応しており、職場のトラブル全般の相談も可能です。そのまま労働基準監督署に取り次がれることもあります。
労働トラブルに強い弁護士に相談する
専門機関は中立的な立場であるため、残業代の回収や退職の代行手続きなどをしてほしい場合にはこちらが有利です。
看護師の働き方改革。業務改善のための新たな取り組み
全国の職場や日本看護協会としても働き方改革推進の流れで残業を減らすための業務改善の取り組みを行っています。
例えば「前残業で行われている業務内容を整理し、業務改善を実施する」「電子カルテなどを活用した情報収集・共有の方法を見直し、申し送り時間の短縮、人員配置の工夫、タスクシフトを採用する」などです。また、日勤者と夜勤者でユニフォームの色を変え、他職種や患者さんにも区別をインフォメーションしたことで、残業している人が一目瞭然となり、残業を意識するようになったり、仕事効率があがったり、といった結果が出ているケースもあります。
日本看護協会では、以前から「ナースのかえるプロジェクト」として、長時間の時間が勤務に関する支援や情報提供を呼び掛けています。
看護師が健全な労働環境に身を置くために
超過残業時間や残業代の未払いなどに関しては、法律が「違反である」と定めています。残業に関してはまだまだ取り組むべき課題が多いことは事実かもしれませんが、改善しようと個人でできることや職場へ働きかけることも大切です。健全な労働環境に身を置けるように、残業について正しく知り、問題を意識して、ひとつずつ解決していきましょう。
【参考】
就業継続が可能な看護職の働き方の提案 日本看護協会 p.16~19
看護業務効率化先進事例収集・周知事業看護業務の効率化先進事例アワード2019
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この記事を書いた人白石弓夏
- 1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。