看護師として働き、数年が経過す…
看護師としての働く「やりがい」を把握する。キャリアアンカーを解説
公開日:2022/6/27
最終更新日:2023/12/28
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看護師のなかには、学生時代に思い描いていた理想と現場の現実とのギャップに直面し、やりがいが見いだせず思い悩んでしまう人もいるでしょう。今回は、仕事のやりがいや働くうえで大事にしたい価値観といった軸を見つけるために有用な、キャリアアンカーという考え方について解説します。
目次
キャリアアンカーで自身の働く上での「やりがい」を整理する
肉体的または精神的にも大変な面があっても「やりがいがあるから頑張れる」という看護師も多いでしょう。大きな責任をともなうと同時に多くのやりがいを感じられるのが看護師の魅力です。一方では、自身が働く上で、どんなことに「やりがい」を感じるのかが、わからなくなったり迷ったりすることがあるでしょう。そこで自身の働く目的や働く上での動機を明確にする上で活用できる「キャリアアンカー」という考え方を紹介します。
キャリアアンカーとは?
キャリアアンカーとは、「仕事体験を通じて自覚された才能と能力、動機と欲求、態度と価値が相互に作用して開発されたもの」と定義されています。組織心理学者であるエドガー・シャイン博士が提唱しました。キャリアアンカーは、職業についてから5~10年のキャリア初期段階で開発され、その後の職業選択やキャリア発達を方向づけするとされています。いわゆる、キャリアの要となる価値観です。アンカーとは錨、つまり船を岸に固定するもののことで、キャリアにおいて譲れない価値観や軸となる考えのことをさします。
キャリアの考え方は働き始めてから変わらないものではなく、常に変化するものともいわれています。例えば、バリバリ現場で働きたいと思っていた気持ちから、結婚して家族ができてから、家族との時間を大切にしつつ自分らしく働きたいという気持ちの変化でキャリアへの想いが変わることもあるでしょう。働いていくなかで考え方が変わっていっても、軸として変わらないのがキャリアアンカーです。
キャリアアンカーの種類
エドガー・シャイン博士が提唱するキャリアアンカーには8つの分類があります。それぞれの特性は以下の通りです。
特定の仕事に対する才能と高い意欲を自覚し、そこに価値を置くアンカー
経営管理そのものに関心を持ち、責任ある地位で意思決定をすることに価値を置くアンカー
どんな仕事でも、自分のやり方やペースで納得できるようにすることに価値を置くアンカー
安全で確実と感じられ、将来を予測し、ゆったりと仕事をすることに価値を置くアンカー
新しい事業を起こすことに価値を置くアンカー
奉仕したい、救いたいという欲求から、世の中をよくすることに価値を置くアンカー
何事にも、あるいは誰にでも打ち勝つことに価値を置くアンカー
個人のニーズ、家族のニーズ、キャリアのニーズをうまく統合させることに価値を置くアンカー
自分のキャリアアンカーを知る方法
キャリアアンカーの8つの分類は、どれかひとつにしかあてはまらないわけではなく、複数が混ざっている場合もあります。また、自分のキャリアアンカーを知るためには、以下の3つの要素をもとに考えていきます。
- 才能と能力(can):できること、得意なことや強み、弱みは何か
- 動機と欲求(will):やりたいこと、望むこと、望まないことは何か
- 態度と価値観(must):やるべきこと、人生やキャリアで何を重んじるか
これまでどのようなシーンでやりがいを感じるか、どのようなことが自分のなかで受け入れられないかなど、書き出していきます。仕事のことだけでなく、私生活のことも含めて考えていくこともポイントです。また、自分ひとりではわからないこともあるので、職場の同僚や友人にも聞いてみると、自分ではわからない部分で気づきがあるかもしれません。書き出すのが難しい場合には、キャリアアンカー診断を手軽にできるツールもありますので、活用してみてください。
なぜキャリアアンカーを知っておくべきなのか
キャリアアンカーを知っておくことでどのようなメリットがあるのでしょうか。理由としては大きく2つ考えられます。
仕事とキャリアアンカーのミスマッチを最小限に抑える
転職や今後のキャリアを考える際の自己分析に役立てることができ、キャリアで重視していることがわかると、自分に合った職場や部署、働き方がわかってきます。こうして、転職時のミスマッチを最小限におさえることができるでしょう。また、いくつかキャリアの選択肢があって迷っている際にも参考になります。給与や待遇だけで誘惑を受けて左右され、後悔するようなことが少なくなるかもしれません。看護師を受け入れる側の職場としてもミスマッチを防ぎ、離職率の改善につながるなどメリットがあります。
自分自身をより深く知って、自分の特質を伸ばす
キャリアに対する考えは、ライフステージごとに変わってくるかもしれません。しかし、キャリアアンカーとしての軸となる自身の価値観は変わることはありません。そのことから、その時々の考えや状況に左右されることなく、自分のやりがいを感じるところ、強みとなる能力などを振り返ることで、その分野や働き方をより伸ばすこともできます。自分が本当にやりたいことをよく考えるための拠り所として、うまく活用することで、より仕事のやりがいを感じることができるでしょう。
看護師の特性とキャリアアンカー
一般的なキャリアアンカーについて理解したうえで、看護師におけるキャリアアンカーの考え方にはどのような特性があるのかを解説します。
ある論文で看護師のキャリアアンカー形成における傾向を調べた研究報告では、結果として「生活様式」が最も高く、次に「保障・安定」、「専門・職能別コンピタンス」、「奉仕・社会貢献」、「純粋な挑戦」、「自律・独立」、「起業家的創造性」と続き、「全般管理コンピタンス」が最も低いことがわかりました。看護師経験年別にみると、「全般管理コンピタンス」で経験年数11年以上群の方が10年以下群よりも高いことがわかりました。配偶者関係別では、「専門・職能別コンピタンス」「自律・独立」で未婚群の方が既婚群よりも有意に高くありました。子どもの有無別においては、「生活様式」で子どもあり群の方が子どもなし群よりも有意に高くありました。このように、配偶者関係別や子どもの有無別で若干の傾向の差はあったものの、アンカー別の順位は群間でほとんど変動しなかったことから、5年(※)などある程度年数を経て形成されたキャリアアンカーは、ライフイベントによっても変化しないことがいえると結論づけられています。これらのことを踏まえると、未婚や子どものいない者の方が職業キャリアへの意識が強い側面があり、その志向が強いために結婚、出産を選択しないと考えられることがわかりました。
※論文の研究対象が勤務経験5年以上であることを踏まえています。
キャリアアンカーの分類ごとの看護師の働き方の例
8つの分類ごとに、看護師としてどのような働き方があるかを例としてあげていきます。
スペシャリストとして認定や専門看護師などの資格を取得して働く
看護部における主任や師長などの管理職、施設運営などの管理者として働く
フリーランス、派遣看護師、個人で起業など、自分で仕事を調整しながら働く
大きな組織で異動などがなく、デスクワークをメインに病院の専属部署や企業などで長く働く
看護師としての経験を活かし開業、起業し、新しいプロジェクトや事業の立ち上げなどに関わって働く
救急医療の現場、またはホスピタリティが高い施設などで働く
海外での支援事業、へき地医療などに携わって働く
週4常勤や日勤常勤、非常勤などで私生活とのバランスをみながら働く
キャリアアンカーでやりがいや魅力を見つけ働き方に生かす
キャリアアンカーの8つの分類を知り、自分自身の強みややりがいを振り返ることができたでしょうか。これからの看護師としてのキャリアを考えるうえで、大事な軸となるキャリアアンカー。看護師として何のために働いているのかわからなくなったり、迷いが生じた際には際には活用してみてください。
【参考】
- 看護師のキャリア・アンカー形成における傾向 日本看護研究学会雑誌 Vol. 33 No. 2 2010
- キャリアアンカーの「8つの分類」とは?診断方法や企業での活用方法(エンゲージメント経営プラットフォームTUNAG)
- キャリア・アンカーとは?8つの分類から適職を考える(RGF Professional Recruitment)
- キャリアアンカーとは?8つの分類と適職を知るメリット(GLOBIS CAREER NOTE)
- A病院看護師のキャリア・アンカーと仕事の継続意思 Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.1, No.1, pp.65-69, 2014
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この記事を書いた人白石弓夏
- 1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。