看護師が遵守すべき守秘義務とは?違反事例やSNS使用の注意点

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看護師には患者さんの個人情報を守る義務があります。不特定多数の人々に個人情報を発信することは禁止されていますが、SNSが普及した近年、看護師による守秘義務違反の事例も実際に報告されています。業務中に個人情報を漏洩しやすい場面や、SNSの使い方で気をつけることなどを解説します。

看護師の守秘義務とは?

看護師の守秘義務とは、「患者さんの個人情報を守り無断で漏洩しない」という看護師が負う法的責任のことです。

守秘義務は保健師助産師看護師法(保助看法)で定められている

看護師の守秘義務は、保健師助産師看護師法(保助看法)で法的に定められています。

第四十二条の二 保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなつた後においても、同様とする。

引用:保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)|e-GOV法令検索

上記の条文にあるように、守秘義務は看護師としての職務から離れた場合も継続して適用されます。つまり、看護師が退職や転職をした後も、過去に関わった患者さんに関する情報を守る責任があるということです。

守秘義務に違反した場合は懲役と罰金が科せられる可能性も

看護師が守秘義務に違反した場合、法的な罰則が科せられることがあります。

第四十四条の四 第四十二条の二の規定に違反して、業務上知り得た人の秘密を漏らした者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

引用:保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)|e-GOV法令検索

条文によると守秘義務に違反した看護師は、懲役半年以下または10万円以下の罰金が科せられます。

この罰則は、患者さんのプライバシーや信頼関係を保護するために設けられています。患者さんの情報は適切に扱い、守秘義務を遵守しましょう。

看護師が守るべき個人情報

看護師が守るべき個人情報には、患者さんに関するさまざまな情報が含まれます。以下に、主な個人情報を挙げます。

患者さんの氏名・住所・電話番号などの基本情報

患者さんの基本情報は個人を特定するための情報で、看護師が業務上知り得ることができます。基本情報には、以下のような情報が含まれます。

  • 氏名
  • 住所
  • 電話番号
  • 生年月日
  • 性別
  • 職業

該当の病棟に勤める看護師から、患者さんを知っている友人や家族にこれらの情報が漏れると、口伝えに正確な身元が特定され患者さんのプライバシー侵害につながる可能性があります。

患者さんの病状や治療計画などの診療情報

患者さんの診療情報は、患者さんの健康や治療に関わる重要な情報です。主に、以下のような内容が含まれます。

  • 病状
  • 診断結果
  • 治療計画
  • 投薬情報
  • 検査結果

これらは、患者さんや家族にとってデリケートな情報です。患者さんが周囲に自身の病状を知られたくない場合には、トラブルにも発展しかねません。基本情報と合わせて漏洩した場合、患者さんや家族自身が知り得なかった情報が第三者から伝わってしまう可能性もあります。

その他患者さんのプライバシーに関わる情報

患者さんのプライバシーに関わる情報は、個人的な事柄や家族関係、社会的背景に関する情報です。主に以下のようなものがあります。

  • 家族構成
  • 職場環境
  • 収入状況
  • 趣味
  • 宗教
  • 性的指向

看護師はこれらの情報も業務上知り得ますが、患者さんによっては診療情報以上にデリケートな情報の可能性があります。

こんな時に注意!守秘義務違反が起きやすい3つの場面

看護師が守秘義務違反に注意すべき状況は、日常的な場面で起こり得ます。以下に、守秘義務違反が起きやすい3つの場面を紹介します。

SNSへの投稿

SNSへの投稿は、現代において看護師が守秘義務を遵守するうえで特に注意すべきポイントです。SNSへの投稿やリプライは、病院内の出来事や患者さんに関する情報を誤って公開してしまうリスクがあります。

例えば職場での出来事について、以下のような投稿に注意しましょう。

  • ある患者さんとのトラブルについてつぶやいた
  • アップロードしたスタッフ同士の写真に患者さんが写っていた
  • 夜勤明けの同僚の投稿にリプライし患者さんの状況を聞いた

SNS上の投稿は不特定多数の人が閲覧できるということを忘れてはいけません。わずかな書き込みや写真からも患者さんの個人情報特定につながるリスクがあるのです。
また、細心の注意を払っていても、本意ではない趣旨で情報が拡散されれば炎上する可能性もあります。一度投稿した内容が拡散されれば完全に消去することは難しく、デジタルタトゥーとして残り続けることを肝に銘じましょう。

同僚との会食や公の場での会話

会食や仕事の帰り道など、仕事のストレス発散や職場仲間とのコミュニケーションの場は職場以外にも多々あります。しかしこのような場でも守秘義務は遵守しなくてはいけません。
同僚との会話ではつい患者さんとの出来事を話題にしてしまいがちですが、どこで誰が聞いているかわかりません。患者さんの家族や知人が近くにいる可能性を常に意識する必要があります。公の場で患者さんの話をするのは控えましょう。

病棟用PCの誤った使用

病棟用PCには、患者さんのほぼすべての情報が保存されています。極端な例ですが、病棟用のPCをインターネットにつなげて調べ物をすることで、ハッキングにより多くの患者さんの情報が外部に漏れてしまうリスクが高まります。

インターネット上のサービスのログイン情報を付箋に記載し病棟用PCに貼り付けるようなことも、セキュリティの観点からは厳禁とされています。病棟用のPCを使用する際には、電子カルテとしての利用に限定しましょう。

看護師の守秘義務違反の事例

看護師が守秘義務を遵守しなかった場合、患者さんのプライバシーが侵害されるだけでなく、看護師自身の信用も失われることになります。
ここでは、実際に起こった守秘義務違反の事例を解説します。自分自身の行動を見直すきっかけにしましょう。

事例1:SNSに勤務中の出来事を投稿した

【事例内容】
20代女性の看護師が、勤務中にトラブルがあった患者さんについてフェイスブックに中傷コメントを投稿。守秘義務違反と同時に誹謗中傷にも該当。

【措置】
厳重注意

出典:医療系学生・医療専門職が起こしたインターネット上のモラルハザード事例|J-STAGE

事例2:患者さんの写真を投稿し誹謗中傷した

【事例内容】
20代女性看護師が、認知症の患者さんの写真をフェイスブックにアップロード。あざけるコメントを書き込んだ。守秘義務違反と同時に誹謗中傷にも該当。

【措置】
停職

出典:医療系学生・医療専門職が起こしたインターネット上のモラルハザード事例|J-STAGE

事例3:患者さんの病状を家族に話した

【事例内容】
当時23歳の患者さんの悪性腫瘍や余命について気にかけていた看護師は、その患者さんの病状について夫に話した。夫は実はその患者さんの家族と知人関係にあり、その情報を患者さんの母親に伝えてしまった。回復の見込みがない事実や余命宣告について聞かされていなかった母親は病院を訴えた。

【措置】
けん責、降格処分および10%減給3か月の懲戒処分

出典:No.65/看護師が患者の病状等を漏洩したことについて病院の責任が認められた事案(福岡高判H24.1.17)|弁護士法人ふくざき法律事務所

看護師が守秘義務を遵守するために気をつけるポイント

看護師が守秘義務を遵守するために、日々の業務やコミュニケーションの中で気をつけるポイントについて見ていきましょう。

SNSへの投稿やリプライには十分注意する

SNSは情報が瞬時に拡散されるため、取り返しがつかなくなる危険をはらんでいます。投稿やリプライには、以下の点に注意しましょう。

投稿やリプライに患者情報を含まない

SNSへの投稿やリプライにおいて、患者情報は含まないようにします。患者さんの氏名、年齢、住所、病状、治療内容など、個人が特定される情報は控えましょう。また、間接的に特定できる情報や状況の投稿も避けるべきです。

例えばSNS上のプロフィールに勤務先や所属病棟につながる情報を記載している場合では、以下のように患者さんの個人情報を直接投稿していない場合でも特定されるリスクがあります。

Twitterプロフィール例

twitter投稿例

「○○病院の○○病棟で○日に起こった急変対応」という情報だけで、病院関係者だけでなく、入院している患者さんにも「入院している病棟の今朝の出来事だ。」とわかってしまう可能性があります。

この投稿を見た患者さんが「今朝、○○さんって人の部屋の周りがバタバタしてて何事だったかわからなかったけど、急変だったらしいよ。」と家族に一言話すだけで、その会話を聞いていた人や、さらに家族が共通の知人に話すなど、芋づる式にうわさが広まりかねません。

限られた人しか閲覧できない鍵アカウントや、情報が限定された範囲で共有されるSNSのグループやリストであっても、画面をスクリーンショットして拡散される可能性も想定されます。常に細心の注意が必要です。

SNSを利用する際は業務上の出来事を投稿せず、情報漏洩につながるリスクを最小限に抑えることが大切です。

院内で撮影した写真は関係者への送信に留める

例えば、退職する同僚との記念撮影をSNSにアップしているケースはよくあります。院内で撮影した写真をSNSに投稿する際は、患者さんの顔や病室が一切写っていないことを確認しましょう。

背景に写っているネームプレートや病室内の医療機器などから、特定の患者さんの病状が推測される可能性もゼロではありません。

もしくは院内で撮影した写真は関係者への送信に留め、必要最低限の範囲で共有してください。また写真を送信する際には、受信者が写真を第三者に転送しないよう念のため注意喚起をすることも大切です。

誹謗中傷を投稿しない

当然のことですが、SNS上で患者さんやその家族、同僚などに対する誹謗中傷は匿名であっても投稿してはいけません。対象者の名誉を傷つけ信用を失墜させる行為であり、これまで説明してきたように法的な問題に発展する可能性もあります。

投稿する前に、自分の言葉が誰かを傷つける可能性があるかどうかを十分に吟味しましょう。悩みやストレスがある場合は、信頼できる同僚や上司への相談に留めてください。

看護師としてプロフェッショナルな対応を心掛け、患者さんや同僚に対する敬意を忘れないコミュニケーションを意識しましょう。

患者情報は必要最低限の関係者のみに伝える

患者情報は、必要最低限の関係者のみに伝えるようにしましょう。院外の友人や家族はもちろん、院内の同僚であっても患者さんの治療に関わらない場合には話さないようにすべきです。

例えば有名人やその家族が入院したなど、興味本位で話したくなるような場合もあるかもしれません。どんな患者さんであっても、個人情報は、治療やケアに直接関わる医療スタッフ間のみで適切に共有することが重要です。

個人情報を含む文書やデータは適切に管理・保管する

患者さんの個人情報を含む文書やデータは、適切に管理・保管しましょう。

例えば看護研究や勉強会の資料作成において、患者さんに関する文書をクラウド上にアップしたりUSBに保存して外部へ持ち出すことは、避けてください。情報を院内のPC以外の場所に保存する場合は、匿名化や情報の一部を伏せるなど、個人が特定できないように対策を講じてください。
患者さんの個人情報の取り扱いについては病院の規則が定められていることがあるため、基本的にはそのルールに従いましょう。ルールについては病棟師長や院内の倫理委員会の人などが知っている可能性があります。

個人情報を含む紙の文書は、施錠できる棚や専用の保管場所で、無関係な人が触れない場所で管理しましょう。廃棄する際には、個人情報が読み取れないようシュレッダー等で細断してから処分してください。

守秘義務を徹底し患者さんにとって安心・安全な医療を提供しよう

看護師が遵守すべき守秘義務は、患者さんのプライバシーを保護し信頼関係を築くために非常に重要です。高度な医療スキルだけでなく、守秘義務によっても患者さんは安心して医療を受けられます。

SNSや電子カルテの利用においても、個人情報の漏洩には十分注意してください。過去の違反事例から学び、同じ過ちを繰り返さないよう心がけることが大切です。常にプロフェッショナルとしての自覚を持ち、看護師としての責任を果たしましょう。

引用・参考

1)保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)|e-GOV法令検索

2)プライバシー尊重と個人情報保護|全日本病院協会

3)個人に関する情報と倫理|日本看護協会

4)病院がサイバー攻撃を受けたとき 消えた電子カルテの衝撃|NHK

5)医療系学生・医療専門職が起こしたインターネット上のモラルハザード事例|J-STAGE

6)No.65/看護師が患者の病状等を漏洩したことについて病院の責任が認められた事案(福岡高判H24.1.17)|弁護士法人ふくざき法律事務所

村上舞
この記事を書いた人
村上舞
帝京大学医療技術学部看護学科を卒業後、医療法人徳洲会 湘南藤沢徳洲会 整形外科病棟勤務に勤務し、整形・脊椎外科の急性期看護を経験。以降は、循環期病棟、呼吸器内科病棟、回復期病棟で勤務。出産を機に退職し、特養やデイサービス、クリニック、健診センター等など幅広い施設での経験を活かし、ライターとして活動中。

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