看護師必見!インシデントレポートの書き方と例文【書式付き】

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インシデントレポートには看護師の医療事故を未然に防ぐという目的があります。そのためにはインシデント状況を簡潔にまとめることが大切です。この記事ではインシデントレポートを書く時の注意点から事例まで、例文をもとに書き方を解説します。

インシデントレポートとは?

インシデントレポートとは、日常診療の場で誤った医療事故に結びつく事例を報告する書類のことです。インシデントレポートは直接患者に影響があった事例だけでなく、患者に影響がなかった事例までを報告します。まずインシデントレポートを書く目的やインシデントとアクシデントの違いについて解説します。

インシデントレポートを制作する目的

インシデントレポートを制作する目的は「同じ間違いを繰り返さないこと」です。インシデントレポートは「反省文」ではありません。医療事故へ結びつく事例を集約し、その要因を分析することで、医療事故の防止を図る目的があります。インシデントレポートを通して職場内で情報を共有することで、医療事故に対する職場全体の意識を高めることができます。

インシデントレポートは誰が書く?

インシデントレポートは、基本的に当事者か発見者が書きます。病院によっては受け持ちの看護師や、責任者が書くこともあるなど一定の決まりがある場合もあるので職場の方針に従いましょう。

ただ、インシデントにかかわった職員が書く方がより正確な情報を報告できます。インシデント発生時は所属長に報告するとともに、インシデントレポート制作について指示を受けましょう。

インシデントとアクシデントの違い

「インシデント」と似た言葉に「アクシデント」があります。「インシデント」とは、ミスはあったが結果的に事故に至らなかった事象であり、「アクシデント」とは医療事故に相当する事象を意味し、過失の有無にかかわらず医療の全過程において発生する人的事故のことです。

アクシデントは、患者だけでなく医療従事者が被害者である場合や医療行為とは直接関係のない転倒や転落による事故も含み、そのなかで医療従事者によるミスのことを「医療過誤」ともいいます。これらの発生した事象すべてがインシデント・アクシデントレポートとして報告対象となります。

参考:厚生労働省「医療事故防止の基本的な考え方」p53
参考:厚生労働省「医療安全の確保にあたっての課題と解決方法」p55

インシデント・医療事故の影響度分類

インシデントレポートを制作する際は、下記影響度分類を用い報告します。

レベル 障害の継続性 障害の程度 内容
レベル0 エラーや医薬品・医療用具の不具合がみられたが、患者には実施されなかった
レベル1 なし 患者への実害はなかった(何らかの影響を与えた可能性は否定できない)
レベル2 一過性 軽度 処置や治療は行わなかった(患者観察の強化、バイタルサインの軽度変化、安全確認のための検査などの必要は生じた)
レベル3a 一過性 中程度 簡単な処置や治療を要した(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など)
レベル3b 一過性 高度 濃厚な処置や治療を要した(バイタルサインの高度変化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延長、外来患者の入院、骨折など)
レベル4a 永続的 軽度〜中程度 永続的な障害や後遺症が残ったが、有意な機能障害や美容上の問題は伴わない
レベル4b 永続的 中程度〜高度 永続的な障害や後遺症が残り、有意な機能障害や美容上の問題を伴う
レベル5 死亡 死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)

引用:厚生労働省「インシデント・医療事故の定義について」

影響度分類では、レベル3以上がアクシデント(医療事故)になります。

わかりやすいインシデントレポートの書き方

より精度の高いインシデントレポートを書くにはおさえておきたいポイントがあります。インシデントレポートの書き方のポイントを適切に理解して、わかりやすいレポート制作を目指しましょう。

インシデントレポートに記載するべき必須項目

インシデントレポートの書式は病院ごとに異なりますが、基本は以下の項目が含まれています。

記載するべき項目

  • 患者情報
  • 当事者の部署・経験年数
  • インシデントの種類
  • 患者影響度
  • 原因の分類
  • インシデントの概要

インシデントレポートは医療事故を防ぐ目的があり、すべての事象を報告することが望ましいものです。そのため、職員が報告しやすいように選択肢から選ぶだけの項目を多くしたり、入力項目を少なくしたりなど、短時間で制作できるよう工夫されている職場もありますが、「インシデントの概要」部分だけは文章として記載する必要があるでしょう。以下で書き方のポイントを紹介します。

わかりやすいインシデントレポートを書くためのポイント

インシデントレポートを書く時のポイントは4つです。

ポイント1:発生状況は5W1Hで書く

5W1Hとは、以下をいいます。

  • いつ
  • どこで
  • 誰が
  • なぜ
  • 何を
  • どのように

インシデントレポートは、起こった事象をありのまま伝えることが大切です。発生状況を5W1Hを用いて書くことで事実を客観的に洗い出すことができ、文章が組み立てやすくなります。文章制作が苦手な人は、まず5W1Hに当てはめながら書き出し、そのあとに文章としてまとめてみると良いでしょう。

NG例:誤って患者に薬を投与した

OK例:〇月〇日〇時〇分頃、患者Aに〇〇を投与するはずが、誤って〇〇を投与してしまった

ポイント2:事実のみを客観的に書く

インシデントは誰もが望んでいるものではありません。そのため、インシデント当事者や発見者はネガティブな感情が生まれやすい状態であり、インシデントレポートも感情を入れた反省文のような表現になりやすい傾向があります。インシデントレポートには「何が起こって(5W1H)、どう対応したのか、どうするべきであったのか」、事実のみを客観的に書くことを意識してまとめましょう。

NG例:患者に〇〇を投与しようと思い、確認したつもりだった

OK例:患者に〇〇を投与する前に、確認を怠った

ポイント3:インシデント発生後の対応も記録する

インシデントレポートには、発生時の状況のほかに発生後の対応も記載しましょう。インシデントの内容によっては、発生後の対応が患者に影響をもたらす可能性もあるため、医療事故防止のための大切な情報となります。具体的には以下のような内容を記載しましょう。

  • 患者への対応
  • 主治医や責任者への報告
  • 患者家族への説明

発生状況と同様にありのままの状況や事実を報告してください。

ポイント4:簡潔にわかりやすく書く

インシデントレポートは発生状況を具体的に書くことも大切ですが、余計な情報が入りすぎると大事な部分が伝わりづらくなります。インシデントに関係のない情報は省き、誰が読んでもわかりやすい内容を心がけましょう。

また、文章は一度で完璧なものは出来上がりません。文章が苦手な人は上司や先輩のアドバイスをもらいながら制作するのも一つの方法です。

インシデントレポートを書く時の注意点

インシデントレポートを書くうえで注意しておきたいことがあります。注意点を把握して、より伝わりやすいレポート制作を心がけましょう。

推測ではなく事実を記載する

インシデントレポートには自分の推測ではなく、事実を記載しましょう。起こった事象に対して自分なりの推測を加えると、誤った解釈として周囲に伝わってしまう可能性があります。起こった事実そのままを書くことで、正確な情報を伝えることができます。

例えば「日勤帯で訪室した際、朝の内服薬がテーブルに置いてあるのを発見」した場合、「朝の内服をしていなかった」と書いてしまうと、自分の推測となるのでNG。この場合は、「朝の内服薬がテーブルに置いてあるのを発見」と、事実のみ書くのが正しい書き方です。

言い訳にならないようにする

インシデントレポートに個人的な事情とも受け取れる言い訳を書いてしまうと、インシデント発生の問題点がわかりづらくなり、インシデントの対策という目的につなげることができません。

  • 疲れていた
  • 時間がなかった
  • 〇〇したつもりだった
  • 〇〇だと思っていたため

このような言い訳に取られてしまう表現は避け、以下のような表現に言い換えましょう。

  • 複数の業務を担当していた
  • 確認を怠った
  • 思い込んでいた

少しの表現の違いで印象が異なるので、意識してみてください。

他人の批判や反省文にならないようにする

インシデントレポートは、医療事故防止を目的として制作するものであり、他人を批判するような内容や反省文は不要です。

  • 患者が〇〇したせいで
  • 同僚が〇〇と言ったから
  • 私が〇〇だったせいで

このような表現は避け、以下のような表現に言い換えましょう。

  • 予測ができなかった
  • 知識不足であった
  • 説明が不十分だった
  • コミュニケーション不足

ミスをした原因を客観的に考えることで、他人や自分を批判するような主観的表現を避けることができます。

インシデントレポート制作の事例と例文

ここからはインシデントレポートの書き方を、看護の現場でよくある事例をもとに例文とあわせて紹介します。NG例とOK例を比較しながら正しい書き方を理解しましょう。

例文1:転倒

<NG>◯月◯日朝6時ごろ、物音がしたため看護師が訪室。患者がベッド横の床で転倒しているのを発見する。

<OK>◯月◯日朝6時ごろ、物音がしたため看護師が訪室。患者がベッド横(右側)の床で座り込んでいるのを発見する。確認すると「トイレに行こうとして尻もちをついた」とのこと。起立、歩行可能。痛みや気分不快なし。頭部、体幹部に外傷なし。Bp 158/88 P 90 SpO2 99%。主治医に報告し経過観察となる。

<ポイント>
推測ではなく、事実を書く

例文2:血糖値の測定忘れ

<NG>◯月◯日17時半に実施予定の血糖測定を行わなかった。 入院や手術患者の対応に追われて余裕がなく、忘れてしまった。

<OK>◯月◯日17時半に実施予定の血糖測定を行わなかった。同時刻に入院や手術患者の対応をしており、忘れてしまった。21時に血糖測定を忘れていたことに気づき主治医に報告。確認後、21時30分に血糖測定を行う。

<ポイント>
言い訳は書かない、発生後の対応を書く

例文3:点滴の投与時間のミス

<NG>◯月◯日9時から輸液500mlを8時間で投与の指示があり開始。点滴開始後、担当看護師が一度も訪室していなかったため、4時間で終了してしまった。

<OK>◯月◯日、主治医から患者に対し輸液500mlを8時間で投与の指示があり、9時15分、看護師Aが点滴施行。13時に看護師Bが訪室した際、輸液がすでに終了しているのを発見。看護師Aに報告する。点滴開始後から訪室していなかった。患者は気分不快なし。BP 120/78 P 78 SpO2 99%。看護師Aが主治医に報告。経過観察となる。

<ポイント>
・他人の批判は書かない
・当事者が複数出てくる場合は、A、Bなどにしてわかりやすく書く

書き方が理解できたら、下記のインシデントレポート書式に実際に書いてみましょう。

インシデントレポート書式_1

インシデントレポート書式_2

インシデントの再発を防ぐわかりやすいレポートを制作する

インシデントレポートを制作する目的は、インシデントの再発や医療事故の防止です。そのため、反省文ではなく、事実を客観的に伝える内容である必要があります。起こった事実を正確に報告することで、的確な対策を講じることにつながります。

インシデントレポートに苦手意識のある人は、最初から完成形を目指さず、実践を重ねるために書いてみることが大切です。事例・例文を参考に修正・追加をしながら完成させましょう。

伊藤雪乃
この記事を書いた人
伊藤雪乃
2003年に看護師免許取得後、北海道の公立病院に5年間勤務し、地域医療をに携わる。その後埼玉県の介護施設(ショートステイ)で3年、整形外科病院に10年勤務。 2018年ごろから副業でライターをはじめ、現在はウェブと書籍に携わるフリーライターとして活動中。 2022年11月発売「私立文章女学院」編集協力

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