生命の危機的状況にある新生児を…
助産師の「きつい」「大変」の実態は?やりがいとキャリアプラン
公開日:2023/3/13
最終更新日:2024/1/12
全て表示
産科医の減少に伴い、活躍の場が増えている助産師。母子の命を預かるというやりがいもある一方で責任も大きく、「きつい」「大変」と感じる人も多いようです。助産師の仕事内容や看護師との違いを理解し、キャリアプランを検討しましょう。
目次
助産師とは?仕事内容を解説
助産師とは、妊娠・分娩・産褥の各期で自らの専門的な知識や技術・判断に基づいて、分娩の介助や妊産褥婦・新生児・乳幼児のケアをする仕事です。助産師として働くためには、看護師免許を取得したうえで、助産師資格を取得する必要があります。助産師が活躍する職場は「病院」や「診療所」が主ですが、開業権を認められているので、独立し「助産所(助産院)」を開業することもできます。
助産師の役割
助産師の仕事内容は、保健師助産師看護師法(保助看法)に以下のように定められています。
厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう
日本では分娩の介助を行えるのは医師と助産師に限られていますが、国内では産科医不足が社会問題であり、分娩を支える専門職として助産師の需要は高まっています。
助産師が「きつい」「大変」と言われる理由6選
「きつい」「大変」と言われることも多い助産師の仕事。なぜそう感じるのか、6つの理由を解説していきます。
高い技術と知識を維持するために継続的な学習が必要
助産師国家試験に合格したからといって、すぐに助産師として自立できるわけではありません。一つのミスが母子の命を危険にさらす可能性もあります。どのような分娩にも対応できる高い技術と知識を維持するために、新人時代はもちろん継続した自己学習が求められ、高い志を持って学び続けることが大変と感じる人も多いようです。
母体・胎児の2つの命を預かる重責
助産師は正常分娩に限り医師の指示なく、自らの判断で分娩介助をすることができます。しかし、母子の命を一度に預かるという重責に耐えられないという人もいます。判断を誤らないよう、母体と胎児のどちらの状態にも気を配る必要があり、さらに急変対応時などは的確かつ迅速な判断が求められます。ミスが許されないプレッシャーや緊張感も助産師の仕事が「きつい」「大変」と言われる理由の1つです。
“幸せ”な妊娠・出産ばかりではない
命の誕生に立ち会うというポジティブなイメージがありますが、妊娠や出産は幸せなものばかりとは限りません。中絶手術の対応や、流産・死産、母体・胎児死亡など辛い場面に立ち会うこともあります。どんなに辛い場面であっても、助産師としての役割を全うすることにきつさを感じる人もいるようです。妊婦やその家族の悲しみに寄り添い、前向きな気持ちになれるようサポートすることも助産師の重要な仕事です。
勤務時間が不規則で生活リズムが乱れやすい
分娩のタイミングは予測できません。勤務者が少ない時間帯に複数の分娩が進行するなど残業が必要な場面もあり、助産師の勤務時間は不安定になりがちです。生活リズムが乱れると心身に大きな負荷がかかります。規則正しい生活ができないストレスも、助産師の仕事がきつく大変な要因のひとつと言えるでしょう。
人間関係のストレスが多い
助産師は、多忙かつ常に強い緊張を強いられるためストレスを感じやすい傾向にあります。心のゆとりを持てず、周囲への接し方がきつくなってしまう人もいます。職場での人間関係に悩んでいる助産師が多いことも事実です。
給料・年収が見合っていない
不規則な勤務時間と仕事量、母子の命を守るという責任の大きさに対し、給料が見合っていないと感じる助産師は少なくありません。さらに、助産師は看護師免許と助産師免許が必要なハードルの高い職種でもあり、助産師になるまでの苦労も含めて給料や年収が少ないと感じる人もいます。
大変だけどやりがいも大きい助産師。向いている人の特徴3選
精神的にも体力的にもハードな助産師の仕事ですが、看護師やほかの職種にはないやりがいがあります。仕事の魅力だけでなく、自分の特性を理解したうえで実際に助産師として働くイメージを持つことがモチベーションを維持して働く秘訣です。ここからは、助産師の仕事のやりがいとあわせて、向いている人の特徴を解説します。
助産師として働くやりがい
助産師として働くやりがいは、主に下記の3つが挙げられます。
やりがい1:命の誕生に立ち会える
「命の誕生に立ち会える」ことを助産師の仕事の一番のやりがいと考える助産師は多いでしょう。妊娠や出産は大きなライフイベントのひとつであり、助産師として分娩だけでなく妊娠から出産、育児にいたるまで長きにわたって携われることもやりがいにつながります。
やりがい2:長く働ける
助産師は管理職などのキャリアアップ以外にも、さまざまな資格を取得して助産師としてスキルアップしたり、開業したりなど多様なキャリアプランがあります。経験豊富な助産師の中には、定年退職後も母乳ケアや育児相談などに携わっている人もいます。人生経験を活かし、ライフステージに合わせて長く働くことができる点も助産師のやりがいといえるでしょう。
やりがい3:開業というキャリアの選択肢が生まれる
助産師は看護師・保健師と異なり医師と同様に「開業権」が認められているので、自らを施設の責任者とし助産所(助産院)を開業することができます。助産師が自らの知識や経験を活かし、病院では実現できなかったを業務を取り入れるなど、さまざまな年代やニーズに合わせた助産が行えることにやりがいを感じる人もいます。
助産師に向いている人の3つの特徴
助産師に向いている人の特徴は、以下の3つです。
特徴1:さまざまな問題に向き合う対象者に寄り添える人
助産師がケアを行う対象は、胎児から妊産褥婦、更年期を迎える年代まで多岐にわたります。同じ年代でも妊娠・出産を希望する人や、更年期障害や悪性腫瘍などさまざまな問題を抱えている人など、その状況は一人ひとり異なります。また、妊産褥婦であっても同じ妊娠や出産はなく、抱えている問題もそれぞれです。妊娠や出産という大きなライフイベントにまつわるうれしいこと、辛いことなどさまざまな状況に寄り添える人が助産師に向いているでしょう。
特徴2:体力・精神力がある人
分娩はいつ始まるか予測できません。分娩を取り扱う施設に勤務する助産師の多くは交替勤務で働いていますが、勤務が長時間になることもあり体力が求められる仕事です。助産師はどのような状況でも的確な判断を下す必要があります。体力だけでなく、母体・胎児の命を預かる重責に耐えられる精神力も兼ね備えた人が助産師に向いているといえるでしょう。
特徴3:継続的に学び続けられる人
助産師はどのような症例にも適切に対応できるよう、高い知識やスキルを維持し続けなければなりません。最善の知識・技術を提供するために、常に自らの意志で学び続けられる人が向いています。エキスパート助産師や認定看護師・専門看護師、産後ケアリスト、産後ケアエキスパート助産師など、プラスアルファの資格を取得しキャリアの選択肢を広げる助産師も増えています。
助産師と看護師の違い。どちらが大変?
「助産師と看護師の仕事はどちらが大変か?」という意見もありますが、保助看法にも規定されている通り、それぞれ専門性が異なり、どちらも大変な職業です。ここからは代表的な仕事内容や勤務体系、給料・年収の違いを解説します。
助産師と看護師の仕事内容の違い
まずは、助産師と看護師の仕事内容の違いを紹介します。
看護師 | 医師の指示のもとに患者の診療介助や生活の補助、教育を行う | 助産師 |
分娩介助や妊産褥婦の世話、指導、新生児指導を行う 正常分娩の介助であれば医師の指示がなくとも自らの判断で行える 看護師資格も有しているため、看護業務も担える 助産所を開業できる |
---|
助産師と看護師の勤務体系の違い
病院や診療所で勤務する助産師の勤務体系は、日勤もしくは2交替・3交替の夜勤が主です。助産所や一部の病院ではオンコール体制(勤務時間外に職場から要請があればいつでも待機しておくこと)を採用していることが多く、勤務時間が不規則になってしまうこともあります。看護師の場合は、オンコールを採用しているケースは少なく、勤務時間外に出勤を要請されることはめったにありません。
助産師と看護師の給料・年収の違い
以下の表は令和3年度賃金構造基本統計調査をもとに、助産師と看護師の平均給料・推定平均年収を比較したものです。(推定平均年収=平均給与×12ヶ月∔年間賞与で計算)
給料(万円) | 賞与 | 推定平均年収 | |
---|---|---|---|
助産師 | 38.7 | 88.7 | 553 |
看護師 | 34.4 | 85.4 | 498.2 |
またハローワーク求人統計データによる、令和3年度の助産師・看護師の月額求人賃金は以下の通りです。
月額求人賃金(万円) | |
---|---|
助産師 | 28.7 |
看護師 | 24.9 |
これらの調査結果から、助産師の方が看護師よりも給料・年収が高いことがわかります。助産師と看護師の給料の差は月平均約5万円程度、年収で約60万円程度です。助産師と看護師が同じ医療機関で同じ年数働いていた場合の生涯賃金や、退職後に受給する年金額も助産師のほうが高くなります。
助産師のキャリアプラン事例を解説
出生率が年々下がっているとはいえ、妊娠・出産がなくなることはありません。最近では、女性の性や生殖に関わる相談や教育・支援の現場でも助産師の活躍が増えています。また、慢性的な産科医不足に陥る周産期医療制度を支える専門職として、助産師のニーズが衰えることはないでしょう。
現在、助産師全体の6割にあたる約23,000人が病院で働いていますが、診療所や助産所、市町村、看護学校養成所など活躍の場は多岐にわたります。助産師のキャリア事例を6つ紹介しますので、参考にしてください。
事例1:アドバンス助産師
アドバンス助産師とは、一定水準以上の助産実践能力を有すると認証された助産師のことです。アドバンス助産師は2015年に設けられた比較的新しい制度で、一般財団法人日本助産評価機構が運営する「CLoCMiP(クリニカルラダー)レベルIII認証制度」の認証を受ける必要があります。
助産師とアドバンス助産師の業務は、一見すると差はありません。しかしアドバンス助産師は高度な知識と技術を有する自立した助産師として、より主体的に質の高い助産業務の提供を求められます。さらには、新人助産師や学生の教育を担うこともあります。
参考:アドバンス助産師について 一般社団法人日本助産評価機構
事例2:開業
助産師は開業権が認められているため、自らを施設長とした助産所を開業できます。助産所では正常な経過をたどる妊婦の健診や分娩、乳房ケアや授乳相談・育児相談、避妊や性の問題への対応など、助産師の専門性を活かした仕事ができます。
事例3:認定看護師
認定看護師は助産に限定した分野はありませんが、新生児集中ケアや生殖看護など助産師の業務と関連した分野があります。
母体・胎児集中治療管理室(M-FICU)を併設する産科病棟や新生児集中治療管理室(NICU)で勤務する助産師は新生児集中ケア認定看護師の知識が求められます。また、不妊治療に携わる助産師は生殖看護認定看護師の知識を活かせるでしょう。
認定看護師については下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
事例4:専門看護師
専門看護師も助産に限定した分野はありませんが、母性看護や小児看護など助産師の仕事と関連した分野があります。母性看護や小児看護の熟練した看護技術や知識を活かし、水準の高い助産業務が提供できるでしょう。
専門看護師について下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
事例5:産後ケアリスト
産後ケアリストとは、一般社団法人日本産後ケア協会が認定する民間資格で、心身ともに不安定になりやすい産後の女性に対して、こころと体、そして子育て環境を整える方法など、多方向から女性を支援する専門職です。日本産後ケア協会が指定する認定講座を受講し、認定試験に合格・登録することで産後ケアリストとして活動できます。
事例6:産後ケアエキスパート助産師
産後ケアエキスパート助産師とは、産前産後ケアに係る実践にエキスパートとして関わり活動する助産師のことで、一般社団法人大阪府助産師会独自の人材育成事業です。未受診や飛び込み出産などのハイリスク妊産婦や災害、虐待事例などさまざまなケースで活かせるスキルが身に着く資格です。大阪府助産師会が開催する講座を受講することで、終了証が授与されます。
令和4年度の産後ケアエキスパート助産師認定講習については、以下の案内を参照してください。
参考:一般社団法人大阪府助産師会 産後ケアエキスパート助産師認定講習会のご案内
助産師として働くやりがいを明確にしてキャリアプランを考えよう
助産師は高度な知識・技術をもとに、母体・胎児の2つの命を預かるやりがいの大きい仕事です。しかし、母体・胎児の2つの命を預かる重責や不規則な勤務時間など「きつい」「大変」と感じる助産師も少なくありません。日本では慢性的な産婦人科医不足に陥る周産期医療の現場を、助産師が支えています。
さらに、女性の性や生殖に関わる相談や教育・支援の現場など、新たな助産師のニーズも増え、働く場所やキャリアの幅も広がっています。まずは自身のやりがいを明確にして、助産師としてのキャリアプランを考えてみましょう。
-
この記事を書いた人小田あかり
- 大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。