看護師の離職率は高い?データで考察する職場を辞める理由と実態

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看護師の離職率は一般的に高い傾向にあると言われています。しかし実際はどうなのでしょうか?日本看護協会や厚生労働省が実施する就業状況に関する調査や、ナース専科が実施したアンケートデータの結果から看護師の転職・離職の実態を明らかにします。

看護師の離職率は本当に高い?実態を分析

新卒からずっと同じ職場で働く看護師もいれば、職場を転々としている看護師までその職歴は多様です。日本看護協会の調査では、正規雇用の看護師の10人に1人が毎年転職していると報告されています。

実際、多くの医療機関では看護師不足が慢性化していて、看護師の売り手市場は続いています。退職しても好条件の求人が見つかりやすく、会社員などと比べると再就職に困らないため離職を決意する看護師も多いのです。

では、実際にどのくらいの看護師が離職しているのでしょう。日本看護協会と厚生労働省の調査結果を元に、看護師の離職の実態を分析します。客観的なデータから看護師の離職の実態と傾向について理解し、ご自身の転職・退職の参考にしてください。

看護師の離職率の現状は?

日本看護協会は毎年、看護師の離職に関する調査をおこなっています。「2021年 病院看護・外来看護実態調査 報告書」によると、2020年度正規雇用職員の離職率は10.6%でした。過去15年間の離職率の推移は新卒・既卒のいずれも減少傾向にありました。

病院看護職員の離職率の推移

職種で比較する離職率

看護師の離職率は他の職種と比べてどの程度高いのでしょうか。まずは「2020年度厚生労働省の雇用動向調査結果」と、日本看護協会の「2021年 病院看護・外来看護実態調査 報告書」をもとに一般労働者離職率と正規雇用看護職員離職率を比較し、以下の結果が得られました。

一般労働者離職率 14.2%
正規雇用看護職員離職率 10.6%

引用:「2021 年 病院看護・外来看護実態調査」 結果 日本看護協会 編
-2021年(令和2年)雇用動向調査結果の概況-  厚生労働省

看護師の離職率は一般労働者の離職率よりも低いことが明らかとなりました。つぎに、さまざまな職種の離職率と看護師の離職率を比較します。

2020年度職業別離職率

2020年度職業別離職率

引用:「2021 年 病院看護・外来看護実態調査」 結果 日本看護協会 編
-2021年(令和2年)雇用動向調査結果の概況-  厚生労働省
(グラフは筆者作成)

各職種の離職率と比較しても、看護師の離職率はさほど高くありません。さらに、医療・福祉全体の離職率は14.2%で、突出して看護師の離職率が高いという訳ではなさそうです。

新卒看護師と既卒看護師の離職率

次に新卒と既卒の離職率に差はあるのか調べてみました。

正規雇用看護職員離職率 10.6%
新卒採用者離職率 8.2%
既卒採用者離職率 14.9%

引用:「2021 年 病院看護・外来看護実態調査」 結果 日本看護協会 編

日本看護協会の調査によると、新卒より既卒の方が離職率は高いことが明らかになりました。既卒よりも新卒の離職率が低い理由に、以下が挙げられます。

多くの看護学生が、看護師資格の取得後に指定病院に勤務することで奨学金返済が免除になる「お礼奉公」を利用。お礼奉公の期間を3年としている病院も多く、期間満了前に退職することをためらっている。
一般的に新人看護師が一通りの技術や知識を習得するためには3年かかると言われているため、経験を積んでから転職を検討している。

また、ナース専科が245人の現役看護師におこなったアンケートでも、入職から1年以内の新卒の時期に1回目の離職をした看護師は約33%で残りの約67%は1年目以降の既卒の時期に離職していました。これは日本看護協会で報告された新卒・既卒の離職率と同じ傾向でした。

入職3年以内に離職や転職をする看護師が多い

看護師は入職からどれくらいの期間で離職や転職をしているのでしょう。前述の調査では67%の看護師は、2年目以降に1回目の転職をしたと回答しています。

初めて転職・離職した時期はいつ?

さらに詳しくアンケート結果をみていくと、約28%が入職2~3年以内に離職や転職をしていました。入職から3年以内に1回目の転職や離職をする看護師は約61%にのぼります。

看護師が離職・転職を検討する理由の第1位は「人間関係」

看護師が離職や転職をする理由にはどのようなものがあるのでしょうか。ナース専科が実施したアンケートでは、下記のような結果が得られました。

転職や離職を検討した理由ランキング

離職・転職を決意した瞬間は?看護師の声を紹介

ランキングでは人間関係に悩んだ結果、離職・退職を考える看護師が多いことが明らかになりました。また結婚や出産・育児などライフイベントに関連して離職・退職を検討する看護師も少なくないようです。

ランキングと同様にアンケートに寄せられた先輩看護師が転職・離職を決意した具体的な理由を紹介します。

看護師の声1:人間関係

人間関係が悪く、色んな人から色んな人の陰口を聞いたときに誰も信じられないと感じました。信頼関係が築けない人と働くことは難しく、退職を決意しました。

看護師の声2:いじめ・パワハラ

職場の雰囲気が悪くいじめとパワハラが常態化。加害者にも被害者にもなりたくなかったので退職しました。

看護師の声3:多忙な業務とやりがい

病棟が忙しく患者よりも業務優先になっていることに気づいたときです。自分のやりたかった看護とのずれを感じ、退職を決意しました。

看護師の声4:労働環境

以前の職場はインシデントが起きやすくなっている状況でした。指摘しても環境が改善されず、自分の工夫や注意だけではリスク回避できない危うさを感じたため退職しました。

看護師の声5:患者さんとの関係

忙しくて疲弊している中で患者さんから暴言・暴力を受けました。こんなに頑張っているのに……と、心が折れてしまいました。

看護師が離職・転職を決意する代表的な3つの理由

これまでの定量的なデータや定性的な具体的な看護師さんの声などから、看護師が離職・転職を決意する理由をまとめました。

理由1:人間関係の悩み

医療業界に限らず多くの社会人が人間関係に悩みを抱えています。特に先輩や上司、医師、患者さんなどさまざまな立場や年代の人と関わる看護師は、人間関係の悩みを抱えやすいようです。

患者さんの命を守るという責任感もあり、精神的に大きなストレスがかかっている場合も。人間関係の悩みは自分一人では解決しにくいため、環境を変えて心機一転したいと考え、離職・退職を決断しています。

理由2:ライフステージの変化

性別を問わず結婚や子育てなどライフステージの変化は、仕事や働き方に影響を与えます。看護師の女性も例外ではありません。昔は結婚を機に退職する女性も少なくありませんでしたが、最近は結婚しても変わらず働き続ける女性が増えています。

昔よりも仕事と育児・家事を両立させたい看護師のサポート制度は充実してきています。しかし、全ての病院でサポート体制が充実しているわけではなく、以前のように夜勤や土日・祝日勤務が難しくなるため、時間の融通が利きやすいパート勤務への転職や退職を決意しています。

理由3:ワークライフバランスや労働環境・待遇に不満

変則的な勤務と長時間労働、休憩が取れない程の忙しさと慢性的な残業など、看護師をとりまく労働環境は精神的にも肉体的にもハードです。業務量に見合わない給料やキャリアアップ支援が整っていないこと、休みが少なくワークライフバランスが保てないなどの要因も転職・退職理由に繋がっています。

離職率から見る働きやすい病院・働き辛い病院の特徴

離職率が低い病院を“働きやすい病院”、離職率が高い病院を“働き辛い病院”と定義し、それぞれの特徴を分析します。

離職率が低く働きやすい病院

  • 病床規模が大きい
  • ライフステージに対応しやすい
  • 公立病院
  • 福利厚生が充実している
  • キャリアアップが実現しやすい

病床規模が大きい病院には、夜勤の多い病棟勤務から週末や祝日は休みで夜勤のない外来勤務まで多様な働き方があります。そのためライフステージに合わせた働き方が選択でき、離職・退職を回避できる可能性が高まります。採用人数も多いため教育体制が充実しており継続して勤務しやすいようです。

さらに、特定機能病院などでは看護師1人あたりが担当する患者の割合が少なく、病床規模の小さい病院に比べ業務負担が少ないケースもあります。

また、民間病院と比較して公立病院では福利厚生や昇給・生涯補償が充実しているケースが多く、一般的に離職率は低い傾向にあります。さらに、看護師としてのキャリアアップを叶えるために、研修受講時の有給休暇取得や研修費の負担などで充実したサポートを受けられる病院も離職率が低くなっています。

離職率が高く働き辛い病院

  • 病床規模が小さい(個人病院など)
  • 都心部

個人病院など規模が小さい病院は人間関係の逃げ場がなかったり、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が難しかったりなど、離職に繋がりやすい要因が潜んでいます。

さらに規模が小さい病院では看護師1人が対応する患者数が多くオーバーワークになりやすいものの、給料は規模の大きい病院と比べ高くないという傾向もあります。また都心部は医療機関も多く転職が容易なため、離職率が高くなっている可能性があると考えられます。

転職回数が多いと次の転職に響く?

転職回数の多さが、次の転職に響くということはありません。転職に至った理由は人それぞれ。人間関係や給料面・業務内容に対する不満だけでなく、自分のキャリアアップや看護の視点を広げるために複数回転職を重ねる看護師もいます。

さまざまな医療機関や診療科で培った高いスキルやアセスメント力で、転職先で活躍する先輩看護師も少なくありません。転職活動での面接では、過去の転職理由や転職をする目的を明確に話せるようにしておきましょう。

病床規模や設置主体、地域別に見る離職率

最後に病床規模や設置主体、地域別に2020年度の離職率をまとめました。

病床規模別

規模が大きい医療機関ほど離職率が低い傾向があります。給料や賞与・キャリアアップなどのサポートが充実しているためと考えられます。

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.4 8.1 14.6
99床以下 11.6 10.0 16.4
100~199床 11.6 10.2 17.4
200~299床 11.2 8.1 13.4
300~399床 10.5 8.9 16.1
400~499床 10.0 8.1 12.4
500床以上 9.8 7.4 12.1
無回答・不明 11.6 0 50.0

引用:「2021 年 病院看護・外来看護実態調査」 結果 日本看護協会 編 P9

設置主体別

設置主体ごとの離職率は大きくばらつきがみられました。国公立病院は福利厚生が充実し安定しているためと考えられます。

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
国立 9.6 7.2 12.7
公立 7.5 7.5 7.7
日本赤十字社 9.6 8.2 8.0
済生会 10.8 8.0 18.3
厚生連 9.3 6.9 12.8
その他公的医療機関 13.0 4.5 0
社保関係団体 10.0 6.7 15.5
公益財団・財団法人 12.0 10.5 16.1
私立学校法人 12.1 8.2 15.0
医療法人 13.6 9.4 19.0
社会福祉法人 12.0 8.2 13.3
医療生協 10.4 4.9 10.9
会社 8.3 7.6 7.1
その他法人 11.1 11.6 13.2
個人 11.5 0 16.7
無回答・不明 11.9 12.9 20.4

引用:「2021 年 病院看護・外来看護実態調査」 結果 日本看護協会 編 P 10

都道府県別

都道府県別の正規雇用看護職員の離職率1位は神奈川県で、次いで東京・埼玉など大都市での離職率が高い傾向が明らかになりました。都市部は病院数が多く転職の選択肢が増え、地方より比較的転職が容易であることも一因と考えられます。

新卒採用者の離職率は2.9~15.0%、既卒採用者の離職率は3.6~28.9%で各都道府県のばらつきがありました。

北海道・東北

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
北海道 10.5 5.3 14.7
青森 6.9 6.7 18.7
岩手 6.1 9.0 24.6
宮城 8.6 7.1 12.9
秋田 7.4 5.7 9.6
山形 6.1 4.7 9.9
福島 7.3 9.8 14.3

関東

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
茨城 10.7 7.8 21.4
栃木 10.1 15.0 13.2
群馬 8.3 9.0 3.8
埼玉 13.0 8.7 20.7
千葉 11.9 6.4 11.9
東京 13.4 10.6 17.4
神奈川 14.0 8.6 20.0
山梨 8.7 5.8 10.9

中部・北陸

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
新潟 8.0 8.9 10.8
富山 8.6 2.9 13.6
石川 10.8 5.6 28.9
福井 7.3 5.2 8.6
長野 8.2 5.1 9.2
岐阜 10.8 9.3 15.0
静岡 8.5 6.1 8.5
愛知 12.2 6.9 13.1
三重 9.8 4.9 18.0

近畿

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
滋賀 10.2 9.9 17.4
京都 11.7 7.2 13.1
大阪 12.3 9.2 16.8
兵庫 11.7 10.7 10.0
奈良 10.8 8.1 19.5
和歌山 9.7 8.7 15.2

中国

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
鳥取 7.4 4.7 7.3
島根 6.5 4.7 6.7
岡山 10.2 7.9 23.4
広島 8.3 7.4 13.8
山口 9.6 10.4 15.0

四国

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
徳島 7.1 7.5 3.6
香川 8.5 14.5 4.5
愛媛 8.8 4.7 14.3
高知 7.8 5.3 13.6

九州・沖縄

正規雇用看護師(%) 新卒採用者(%) 既卒採用者(%)
全体 10.6 8.2 14.9
福岡 10.2 8.6 12.7
佐賀 7.2 6.3 13.6
長崎 8.3 6.3 9.1
熊本 9.2 9.2 11.1
大分 9.3 5.7 22.4
宮崎 8.1 9.0 13.0
鹿児島 9.4 4.7 21.1
沖縄 10.9 7.5 4.9

引用:「2021 年 病院看護・外来看護実態調査」 結果 日本看護協会 編 P10 ~11

離職率の実態を理解してキャリアプランニングに活かそう

看護師の離職率は全職業の平均や、医療・福祉の離職率と比較しても決して高いわけではありません。しかし、医療機関の規模や設置主体、都道府県によって差があります。

さらに、人間関係の悩みやワークライフバランスの変化、キャリアアップのためなど複数回転職する看護師も少なくありません。本記事を参考にそれぞれの職場の特徴や傾向を把握したうえで、自身に適したキャリアプランニングや職場探しのヒントにしてください。

引用・参考

1)「2021 年 病院看護・外来看護実態調査」 結果 日本看護協会 編

2)-2021年(令和2年)雇用動向調査結果の概況-  厚生労働省

小田あかり
この記事を書いた人
小田あかり
大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。

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