看護師として入職後の初期研修で…
看護師の人間関係といじめ問題。パワハラ・モラハラの事例と対処法
公開日:2022/9/13
最終更新日:2024/2/9
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看護師の職場におけるいじめ問題。いじめをする側にもされる側にもならないためには、どんな行為がいじめにあたるのかを知り、気づくことが重要です。今回はいじめに関するデータや実例を紹介。いじめを見過ごさず、適切な対処を取れるようにしましょう。
職場における人間関係といじめ問題
「いじめ」という言葉を聞くと、学校における人間関係のこじれを発端とする様々な問題が思い浮かぶかもしれません。昨今のニュースを見ていても、子供同士の悪ふざけがエスカレートしていじめや事件に発展するなど、重大な社会問題であることが伺えます。「いじめ」はなにも学校の問題だけではありません。残念ながら社会人となってからも、職場でのいじめやハラスメントは存在しています。はじめにデータから看護師の人間関係の実態や近年のいじめの実態と傾向を見ていきましょう。
いじめとパワハラ・モラハラの違いは?
いじめと同様に、セクハラ、パワハラ、モラハラなど「ハラスメント」という言葉を耳にする機会も増えてきたのではないでしょうか。いじめとハラスメントの違いにおいては、さまざま議論がなされています。厚生労働省の『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』は以下のように述べています。
”職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。”
”「パワーハラスメント」という言葉については、例えば、各種報道や出版物、複数の国語辞典でも、職場のいじめ・嫌がらせを指す言葉として用いられている。ただし、上司から部下に行われるものを指している場合と、その他の関係間で行われるものを含んでいる場合の両方が見られる。”
【引用】厚生労働省『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』
また、『病院看護職における職員間暴力・ハラスメントの実態と抑うつとの関連』の調査内では、いじめを以下に定義しています。
”いじめとは個人や複数の職員に悪意をもって会話に入れない、無視したりして孤立させる行為”
【引用】東北文化学園大学医療福祉学部看護学科『病院看護職における職員間暴力・ハラスメントの実態と抑うつとの関連』
こうした精神的な嫌がらせはモラルハラスメントとも呼ばれています。職場に限らず、家庭内におけるパートナーへの暴言などもモラハラと呼ぶことがあります。フランスの労働法典ではモラハラを以下のように定義しており、日本ではパワハラとモラハラはほぼ同義で扱われています。
”いかなる被用者も、その権利および尊厳を侵害し、身体的もしくは精神的健康を害し、または将来の職業上の地位を危うくするおそれのある労働条件の劣化を目的とする、またはそのような効果を及ぼす反復的行為を受けてはならない”
この記事では、この記事では、身体的な暴力以外の精神的な攻撃によるいじめやパワハラ・モラハラについてメインに説明していきます。
近年のいじめの傾向は
近年のいじめの傾向を知るために、まずは子供のケースを見ていきましょう。子供のいじめには身体的な暴力以外にも、仲間外れや無視、相手が嫌がることをしたり、させたりする心理的ダメージを与えるものがあります。またSNSなどで匿名性を利用した個人を攻撃するようなインターネット上の誹謗中傷などのいじめも増えてきました。これらは動作が遅い、性格がおとなしいといった子ばかりが対象となるいじめばかりではありません。一人を複数人がいじめる傾向にあることから、いじめの首謀者が誰かわかりにくく、いじめを行う側の子供が罪の意識を感じていないなどもあります。さらに、実際にいじめに加担していなくとも、いじめを面白がったりする観衆や、見て見ぬふりをしている傍観者も存在します。これは子供のいじめに限らず、社会人であっても似たような状況が伺えます。
職場内のいじめとしては、例えば以下のような行為があげられるでしょう。
- 無視や陰口
- 仕事をはずされる、必要な情報を与えられない
- 一方的に仕事を押し付けられる
- 個人の意見や主張を否定・批判される
- ミスを誘発する行動をとられる
- 個人情報を周りに言いふらされる
また、結婚や出産に関する女性同士のいじめも存在します。同僚や先輩、上司からいじめを受けた結果、被害者がうつ病などの精神疾患を発症し退職に追い込まれるケースも珍しくはありません。こうしたケースでは、被害者が加害者の法的な責任を追及するだけでなく、いじめを見過ごした、把握していたにもかかわらず十分な対応をしてくれなかったとして職場の責任を追及するケースもあります。
看護師の職場における人間関係と「いじめ」の実態
看護師の職場における人間関係やいじめに関して『病院看護職における職員間暴力・ハラスメントの実態と抑うつとの関連』では、以下のような職種間暴力・ハラスメントの状況が報告としてあげられています。
【参考】東北文化学園大学医療福祉学部看護学科『病院看護職における職員間暴力・ハラスメントの実態と抑うつとの関連』
職員間での暴力・ハラスメント受けたことがある回答者にその内容を調査した結果は以下の通りです。
職員間での暴力・ハラスメント調査結果
暴力・ハラスメントの種類 | 受けたことがある回答者割合 | 暴力・ハラスメントの内訳 |
---|---|---|
言葉の暴力 | 14.6%(106名) | ・医師から受けた 61.3%(65名) ・同僚看護師から受けた 49.2%(31名) |
パワハラ | 10.9%(79名) | ・所属長から 43.0%(34名) ・同部署看護師と医師から 31.6%(25名) |
いじめ | 5.2%(38名) | ・同僚看護師から 71.1%(27名) ・所属長から 26.4%(10名) |
セクハラ | 2.1%(15名) | |
身体的暴力 | 1.0%(7名) |
【参考】東北文化学園大学医療福祉学部看護学科『病院看護職における職員間暴力・ハラスメントの実態と抑うつとの関連』
これらの結果から、一般企業での調査結果とほぼ同様の割合で医療現場でもパワハラが行われていることがわかりました。
看護師の人間関係。パワハラ・モラハラはどのようなことがされている?
実際に看護師の職場ではどのようないじめが行われているのでしょうか。まずはナース専科が2年目以降の看護師を対象に実施したアンケートを見ていきましょう。
半数以上の看護師がパワハラを経験しています。その内容は人格否定などの精神的な苦痛を与える言葉の暴力が半数以上。また、業務においても処理しきれない過剰な作業量を押し付けられたりと様々な手段でパワハラが行われていることが伺えます。
同アンケートで寄せられた看護師のいじめの「パワハラ」と「モラハラ」実例を紹介します。
看護師の「パワハラ」実例
- 上司から提出書類について、明確な理由もなく何度も修正させられるなどの嫌がらせを受けた
- 上司の個人的な希望で一方的に人事を決定された
- 経営からの一方的な降格人事
- 業務時間内では処理出来ない業務量を先輩から押し付けられた
- 周囲にスタッフがいる中で上司から大声で怒鳴られ罵られた。
- 医師から脅されるような物言いをされる
看護師の「モラハラ」実例
- 仕事を回してもらえない。仕事の用品を勝手に処分された。陰口で孤立させられる
- 業務に手間取っていると同僚から周りに大勢人がいる中で「給料泥棒」と言われ、早くタイムカードを切るように促された。
- 挨拶をしても返事がない
- 自分にだけ連絡事項を伝えられない
- 仕事に関係ないことで理不尽に怒られ、人格を否定するようなことを言われた。
- 同僚がいるなかで長時間の叱責
など、さまざまな精神的な攻撃や人間関係から孤立させられるようなエピソードが寄せられました。
看護師の人間関係。起こりうる「いじめ」の事例は?
看護師のいじめの事例みてみましょう。今回は「看護師 いじめ」でインターネットを検索すると圧倒的多数を占める「人間関係」と、「中途採用」「大卒」といった入職や学歴関する事例を中心に取り上げます。
看護師いじめ×人間関係
看護師の仕事は、それぞれが個人の仕事を淡々とこなせばいいわけではなく、多くはチームで協力して患者さんを受け持ち、仕事を分担しています。そのため大勢のスタッフと関わる必要がありますが、コミュニケーションエラーなどで人間関係がぎくしゃくした結果、いじめに発展するケースがあるようです。
看護師いじめ×中途採用
人間関係がすでに構築され、外部からの新人や中途採用者を受け入れる姿勢がない職場でいじめが発生しやすいようです。とくにそうした職場では中途採用者が新しい職場のやり方になかなか馴染めず、周囲が「負担をかけられている」と感じ、いじめに発展するとも考えられます。
看護師いじめ×大卒
専門卒か大卒か、看護師の間でも話題となりやすいのが学歴問題です。さまざまな学歴のスタッフが集まると「専門卒だから」「大卒だから」とレッテル貼りが行われることも。実際に専門卒と大卒では基本給が違うケースもあるため、こうした差別偏見が横行しているところも少なくはありません。
以上は主に看護師同士、スタッフ間でのいじめの事例ですが、患者からのパワハラ被害があるように、患者や家族との関係性のなかでいじめが起きるケースも忘れてはいけません。看護師が働く現場には、学歴や社会人経験だけでなく、さまざまなバックグラウンドをもった人がいます。看護の対象となる患者さんもまた、さまざまなバックグラウンドを持っています。お互いを知り、理解を深め、尊重する心構えで、いじめやハラスメントを防止していきましょう。
いじめの対処法を紹介
職場でいじめにあったかもしれないと感じたとき、原因を「自分の性格が悪いから」「仕事ができないから」として自分を責める人は少なくないでしょう。これまでいじめは「個人的な問題」とされる傾向にありましたが、近年では個人の問題で片づけられない状況になっていることが事実です。人格権の侵害など法律に抵触するケースも増えています。ただし、いじめにはさまざまな状況が考えられ、違法行為にあたるかどうか一概に判断できません。以下の方法で対処しましょう。
いじめの内容を記録
いじめの加害者、内容、発生日時を記録、そのほかに上司への相談内容、その対応なども文字として記録、または録音しておきます。
責任をとれる立場の上司に相談
加害者に注意・指導を求める、職場環境の改善や配置転換を相談することで、解決につながることもあります。
職場の対策機関に相談
ハラスメントなどの組織対策を行い、ハラスメントに関する報告の手続きをマニュアルにまとめている職場もあります。大きな組織では、ハラスメント委員会を設置しているところもあるため、組織のルールに沿って相談しましょう。
専門機関に相談
労働組合に相談して交渉してもらう、都道府県の労働センターや個別労働紛争解決制度、裁判所などの公的相談機関を利用することも方法のひとつです。
専門機関の紹介)
- 相談窓口・援助機関
- 総合労働相談コーナーのご案内
精神的なケア
いじめを受けていると、心身ともに疲弊し、専門機関に相談することも負担になることもあるでしょう。カウンセラーや専門家のアドバイスを受けることも必要です。働く人のメンタルヘルス相談などを利用することもできます。
被害者にも加害者にもならないようにいじめから身を守る
いじめは誰にでも起こり得ることで、自分が加害者になる可能性もゼロではありません。とくに看護師の職場では、その責任感から自分を責めてしまい、表に出てこないケースも多いかもしれません。いじめとは何かを知り、自分が受けているいじめに早くに気づき、一人で抱え込まず適切な対処をとって自分を守ってください。同時に自身の言動が誰かに対するいじめにならないよう気をつけつつ、より良い職場環境を目指してくださいね。
【参考】
職場における看護師のモラルハラスメントの体験~看護師へのインタビューを通して~
「ハラスメント基本情報」 ハラスメントの類型と種類 (明るい職場応援団)
病院看護職における職員間暴力・ハラスメントの実態と抑うつとの関連
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この記事を書いた人白石弓夏
- 1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。