働く看護師の「休職」の選択。適用期間から傷病手当金などの保障を解説

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24歳以下の看護師の退職理由として最も多いのが「自分の健康(主に精神的理由)」でした。今回は「つらい」と感じたときに利用できる休職制度を紹介。休職期間や受け取れる手当、具体的な休職方法について解説します。

看護師の休職事情。仕事を一定期間休むという選択肢

2020年度の都道府県ナースセンターの登録データによると、24歳以下の看護師の退職理由の最多は「健康問題」です。働く中で健康に支障をきたしてしまうことは起こりうることです。そんなときに「退職」を選ぶのではなく、仕事を「休職」するという選択肢があることも知っておきましょう。

休職とは?

休職とは労働者側の都合で業務を成し遂げることが困難、または適当でない場合は労働契約を維持しながらも、労働者の業務を免除する(長期的に会社を休む)こといいます。休職制度の対象となる休職期間や復職可否判断基準の規定は、就業規則・雇用契約に定められていて、就業先ごとに内容が異なります。

25%の看護師が休職経験あり

ナース専科が実施したアンケートでは、300人中のうち約25%の人が休職経験があると回答しました。休職経験がある方たちに具体的な休職理由を聞いた結果、以下のような回答が多くなりました。

看護師がおさえるべき休職制度を解説

看護師は職業性ストレスが高く、メンタルヘルスの不調を起こしやすい職業です。そのため、休職制度について知っておくことは重要です。

「うつ病」「適応障害」…。ストレスフルな看護師の心の健康問題

新人や経験年数の浅い看護師の退職理由として多いのが、「うつ病」「適応障害」などの心の健康問題です。ナースセンター登録データ(2020年度)によると、「未就業または看護職以外で就業中」の求職者のうち、24歳以下の退職理由の第1位が「自分の健康(主に精神的理由)」です。25~29歳の年齢層でも第4位に入っています。

ストレスが多い職場環境の看護師は、メンタルヘルスのハイリスクグループに属する職業と言われています。不規則な勤務体制、時間外勤務の多さ、仕事内容による緊張感、上司や同僚との人間関係、患者・患者家族との関係など、看護師特有のストレッサーが多く存在し、それらが重複・蓄積して看護師のメンタルに影響を及ぼします。
実際に退職には至っていないものの、精神的理由で悩んでいる人はさらに多いことでしょう。

休職制度を理解する

休職制度は、就業規則や労働協約などによって定められており、下記のようなものがあります。

  • 病気や怪我などによる傷病休職
  • 事故を理由とする事故休職
  • 刑事事件で起訴された場合の起訴休職
  • 他機関への出向期間中になされる出向休職
  • 研修や海外留学などの期間中の休職

しかし、休職制度は法律に規定されていない「法定外休暇」のため、勤務先によっては休職制度がない場合もあります。
また、休職期間の長さや、休職期間中の給与の有無・取扱いなどは企業・病院によって多種多様です。傷病休職の場合、勤続年数や傷病の種類によって休職期間の区分を設けられることがあります。

「休職したい」と考えた時の流れと申請方法

休職したいと思ってもなかなか言い出しにくいもの。しかし、そのまま我慢しては心身の不調は蓄積・悪化するばかりです。休職に向けて具体的にどうすればいいか見てみましょう。

1.就業規則を確認する

病院によって休業制度の有無や内容が違うため、必ず就業規則を確認しましょう。
休業制度がない場合、有給休暇を利用することになり、そのあとは欠勤扱いになる場合があります。
休業制度があり給与が支給される場合も、夜勤や時間外勤務がない分、収入が減ることが予想されます。
休職してから収入面の問題にぶつかるのは避けたいところ。事前に確認しておくことで、問題を回避できるでしょう。

また、休職期間が満了したが復帰が難しい場合、退職となるのか、休職期間を延長できるのかもチェックしておく必要があります。

2.診断書を取得する

心身の不調を感じたら、早めに受診することが勧められます。通院治療によって症状の改善が期待できるだけでなく、改善しなかった場合に休職の必要性を医師に診断してもらえるためです。

休職するには医師の診断書の提出を求められる場合が多いため自分の状態を知る、かかりつけ医を見つけておくことは大切なことです。休職が必要と判断してくれる存在がいることで、精神的な支えになってくれることでしょう。

医師に診断書を書いてもらう際には、傷病名、休職の必要性があること、必要とされる休職期間などを明記してもらいましょう。

3.診断書を提出して休職を申請する

休職の申請には、多くの場合、師長への申し出が必要になります。ただ、人員が足りていない病棟や部署の場合、休職を引き留められることもあるかもしれません。

そんなときには、医師の診断書を提出すると話が進みやすいでしょう。休職の診断書が提出された場合、必ず即休職させなければなりません。もし診断書を無視して休職させず、職員の状態が悪化した場合、雇用側の企業・病院は「安全配慮義務違反※」として責任を追及される場合があります6)
診断書を提出することで、単なる相談ではなく、休職が必要な状況であることを伝えられるでしょう。

※安全配慮義務違反とは7)
労働契約法で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と、使用者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)が示されています。メンタルヘルス対策も安全配慮義務に含まれます。

4.相談窓口を利用する

休職を悩んでいる場合や、今後の働き方を相談したい場合には、都道府県ナースセンターに相談してみましょう。
都道府県ナースセンターは、各都道府県の看護協会が運営する、看護職のサポート活動の拠点です。無料の職業紹介のほか、就業相談、進路相談、メンタルヘルス相談などを行っています。第三者の新たな視点から有益な情報を聞けるかもしれません。

休職中も給料はもらえる? 利用できる保障制度と傷病手当金

休職中の給料の有無や、どれぐらい減るのかは気になるところですね。少しでも収入を維持できるよう、利用できる制度や手当を見てみましょう。

復職期間や給料の取り扱い…。休職制度は就業先により異なる

休職制度の有無や期間、給料の取り扱いなどは病院や企業ごとに異なります。就業規則に休職制度が定められているかを確認し、休職制度があれば制度の詳細を確認することが必要です。

傷病の場合は給料を代替する手当がある

病気や怪我による休職の場合、「傷病手当金」もしくは「休業(補償)等給付・休業特別給付金」のいずれかを受け取れます。休職の原因となった病気や怪我が、業務外の事由によるものか、業務中や通勤中の事由によるものかによって、利用できる制度が違います。

傷病手当金

傷病手当金は、業務外の事由による病気や怪我のために仕事を休み、休業期間に給与の支払いがない場合に支給される手当です。休業期間が連続して3日間あったうえで、4日目以降、休んだ日に対して支給されます。支給期間は、支給を開始した日から数えて1年6ヵ月です。

支給される日額は下記のように計算されます。

【支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】(※)÷30日×(2/3)
(※)支給開始日(一番最初に傷病手当金が支給された日)の以前の期間が12ヵ月に満たない場合は、次のいずれか低い額を使用して計算します。

  • 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
  • 標準報酬月額の平均額

   ・28万円:支給開始日が平成31年3月31日までの方
   ・30万円:支給開始日が平成31年4月1日以降の方

例)支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額が25万円だった場合
25万÷30日×(2/3)=約5,556円(支給日額)

休業(補償)等給付・休業特別給付金

休業(補償)等給付・休業特別給付金は、業務上の事由または通勤による怪我や病気による療養のために仕事を休み、休業期間に給与の支払いがない場合に支給される手当です。休業期間が連続して3日間あったうえで、4日目以降、休んだ日に対して支給されます。
支給される日額は下記のように計算されます10)

休業(補償)等給付=給付基礎日額(※)の60%×休業日数
休業特別支給金=給付基礎日額(※)の20%×休業日数
(※)給付基礎日額とは、事故が起きた日または医師の診断によって病気が確定した日の直近3カ月間に支給された賃金の総額÷日数

例)病気が確定した日の直近3か月の支給日額の平均(給付基礎日額)が5,500円だった場合
5,500×60%+5,500×20%=4,400円(支給日額)

所得補償保険

公的な制度ではありませんが、民間の所得保障保険に加入していれば、休業中に保険金を受け取れます。ただし、対象となる病気が限定されていたり、精神障害による休業が対象外になったりする場合があるため、契約前に必ず契約概要や約款を確認することが大切です。

休職制度を理解して仕事がつらいときは相談をする

つらい状態が続くと、職場を退職するかしないかの2択になりがちです。しかし、その選択の前に、まずは心と体を休ませ、冷静な判断ができる状態に回復することが必要です。
休むという選択ができるよう、休職制度を正しく理解し、申請方法や相談窓口を把握しましょう。

参考

1)ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析報告書 2020(令和2)年度
https://www.nurse-center.net/nccs/scontents/NCCS/html/pdf/2020/202_3.pdf
2)大阪府 休職と休業
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6026/00000000/034.pdf
3)日本看護協会 看護職の働き方改革の推進
https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/safety/mental/index.html
4)労働政策研究・研究機構 休職制度と職場復帰
https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/06/55.html
5)大阪府 休職と休業
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6026/00000000/034.pdf
6)東京都労働相談情報センター 使用者の安全配慮義務
https://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.lg.jp/mental/line_care/law/abor.html
7)全国健康保険協会 傷病手当金
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/
8)厚生労働省 休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-13-02.pdf

広田沙織
この記事を書いた人
広田沙織
大阪府立看護大学医療技術短期大学部卒業、看護師資格を取得。国立系総合病院の周産期科にて勤務を経て、婦人科クリニック勤務や、派遣看護師として老人福祉施設、デイサービス、健診センター、訪問入浴などで勤務。一般企業にて勤務後、医療ライターを始め、医療ライターズ事務所メディペンを開設。ファイナンシャルプランナー3級の資格を所持。

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