看護師のコンプライアンス(法令遵守)の基礎知識。定義から事例を紹介

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看護師が働く医療現場でとくに重要視されるコンプライアンス(法令順守)。コンプライアンス違反となり法的に罰せられることがないように、意味と重要性を正しく理解する必要があります。今回は看護師が理解すべきコンプライアンスの定義と注意点を具体的な事例をまじえ解説します。

看護師におけるコンプライアンス(法令遵守)の重要性

最近、企業やマスメディアで重要視されるようになった「コンプライアンス(法令遵守)」。看護師も医療現場におけるコンプライアンスの重要性を理解しておく必要があります。

コンプライアンス違反は、自分だけでなく、働いている医療機関や友人・家族にも影響を与える可能性があります。コンプライアンスの概念や必要性を知ることで、コンプライアンス違反を避けることができます。医療現場におけるコンプライアンスの定義と注意点を理解し、リスク管理ができる看護師を目指しましょう。

医療現場におけるコンプライアンスとは?

コンプライアンス(compliance)を直訳すると「命令・要求にしたがうこと」という意味です。辞書には「社会規範・企業倫理を守ること。法令遵守。」と書かれています。
従来は「法令遵守」という意味が重要視されていました。最近では、常識やマナー、道徳や倫理、思いやりという意味も含まれ、信頼に足る行動をとることも求められるようになっています。

通常、医療現場で「コンプライアンス」という言葉は「服薬のコンプライアンスが悪い」のような使い方をします。具体的には「患者が医療従事者の指示を遵守しているか」という意味で使われています。

しかし、一般的なコンプライアンスの意味はそれだけではありません。

コンプライアンスの概念を図で表すと、以下になります。

まず、一番根幹にあるものは法令遵守(コンプライアンス)です。

コンプライアンスに関連する法令 独占禁止法・セクハラ等労働関係法令・知的財産権法・個人情報保護法・労働基準法
看護師が遵守する法令 保健師助産師看護師法、医師法、医療法、薬事法

看護師はコンプライアンスに関連する法令だけでなく、看護師の業務遂行の根拠となる保健師助産師看護師法といった看護関連法令の遵守も必要です。

コンプライアンス違反にあてはまる行為として、医療事故や医療事故の隠ぺい、カルテの改ざん、不正受給、情報漏洩、不正行為・不祥事があげられます。

次に「社内規範」「社会規範」「企業倫理」が続きます。

社内規範は、病院や医療機関の業務規定や院内ルール、就業規則といったとても身近なルールが該当しています。

社会規範は、社会の常識や良識です。社会人として生活していくうえで必要な、基本的なルールが含まれています。企業倫理は病院・看護部の理念や、病院や看護職が国内や地域で果たす「社会的責任(CSR)」もコンプライアンスに含まれています。

コンプライアンスは社会人としてはもちろん、医療従事者としても遵守することが求められます。

医療現場でコンプライアンスが重要視される理由

前述したように、看護師は一般的なコンプライアンスだけでなく「看護師」という職業に関連したコンプライアンス遵守も求められています。

医療は「人の命」に直結する仕事のため、医療事故・アクシデントは許されません。そして多くの個人情報を取り扱う、特殊な環境で働いています。様々な職務上の責任を自覚し、誠実に看護をおこなうことや社会倫理、医療倫理に常に配慮が求められています。

そのためには社会的責任を含めた広義の「コンプライアンス」が重要視されているのです。また、「コンプライアンス」を遵守できる職場環境づくり、教育体制が求められています。

コンプライアンス推進のために実施されている職場環境改善の取り組み

コンプライアンスを遵守するためには、個人の理解や努力だけでなく、遵守できるような職場環境も大切です。医療機関はスタッフが少しでも働きやすくなるように、コンプライアンス推進を目的とした、様々な取り組みを実施しています。具体的には以下があります。

医療事故対策 マニュアル作成、手順作成、インシデント・アクシデントの分析と情報共有・再発防止に向けた組織的検討の実施、職員研修
緊急災害対策 マニュアル作成、地域内での連携体制の構築、災害連絡系統の確保と周知徹底、医療物資や食料等の備蓄と定期的な点検、災害発生時の調達方法と計画の策定、遠方の病院との連携の構築、災害時に提供可能な医療体制の明確化と体制構築
問題行動のある患者対策 マニュアル作成、患者対応研修の実施、対対応困難患者専用部署の設置、弁護士やコンサルタント等相談窓口との連携
患者保護対策 マニュアル作成、患者・家族相談窓口の設置、患者情報の管理・活用法の提示
医療訴訟対策 マニュアル作成、患者・家族からの意見・苦情の収集、収集した意見への対策検討とフィードバック、クレーム対応窓口の一本化又は責任者の選定
コンプライアンス専門組織/人員の配置 コンプライアンス推進・確保に向けた専門部署・責任者の設置、匿名性を担保した対応窓口の設置
医療事務適切性の確保 マニュアル作成、レセプト作成・点検、返戻・査定への対応、未収金への組織的対応、職員による情報や
職員に対する安全衛生管理 マニュアル作成、健康診断の実施、暴力・暴言に関するリスク管理や報告制度の整備、し感染対策の整備と徹底

厚生労働省のアンケート結果によると、9割近くの病院が医療事故対策や災害時対策には力を入れていることが明らかになっています。しかし、災害時の連携や問題行動のある患者対策は、大病院と中小病院でもばらつきがあります。各医療機関は現在も取り組みをすすめています。

看護師のコンプライアンス違反の事例を紹介

ここでは、看護師がおこしやすいコンプライアンス違反について、3つの場面と注意点を解説します。何気ない行動が「コンプライアンス違反」とならないためにも、しっかりと理解しましょう。

事例1:個人情報の流出

看護師が起こしやすい、個人情報の流出は以下があります。

  • 院内や通勤途中など、不特定多数の人がいる環境で患者に関する話をする
  • 患者や病院名など個人が特定できる状態でのSNSへの投稿をする
  • 電話で容態や治療を訪ねられ、患者の許可なく答えてしまう
  • FAXや郵便物・メールを患者情報が特定できる状態で送信する、もしくは誤送信する
  • 患者情報が記載されたメモやプリントを紛失する

個人情報の流出を防ぐためには、情報の取扱いに細心の注意をはらうこと、院内外での言動に気を付けること、患者情報に関連するSNSへの投稿は避けることが重要です。

事例2:カルテの改ざん、虚偽の報告

看護記録の改ざん・虚偽の報告は、たとえ上司や医師に強制されたとしても、決しておこなってはいけません。行った場合には、指示した人だけでなく実際に記載した人にも刑事責任が問われ、処罰されます。

カルテの改ざんは、医師法第24条1項「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」に違反するため、コンプライアンスの概念の根幹となる法令違反となります。

さらに公益社団法人日本看護協会はカルテの改ざん・虚偽の報告を「記録の全部または一部を意図的に、事実と異なる内容に書き換えること」と定義しています。
さらに、看護記録は以下に留意するように求めています。

  • 事実を正確に記載する
  • 記載した日時と記載した個人の名前を残す
  • 記載内容の訂正をする場合、訂正した者、内容、日時がわかるようにおこなう
  • 訂正する前の記載は読み取れる形で残しておく
  • 追記をする場合は、いつの、どの箇所への追記であるかがわかるようにする

看護記録は診療録と同様に法的証拠となる、とても重要なものです。看護記録に記載がない看護実践は、 看護実践が行われていたとしても実践したと認定されないことがありますし、行った看護実践の事実を記載する必要があります。

記録には、行った看護の事実を記載しましょう。

事例3:インシデント・医療事故の隠蔽

インシデント・医療事故は報告する義務があり、隠してはいけません。

インシデントは、ヒヤリハットとも呼ばれ、以下のように分類されます。

①患者には実施されなかったが、仮に実施された場合には何らかの被害が予測されるもの
②患者に実施されたが、結果的に被害がなく、その後の観察も不要であったもの

医療事故は、アクシデントにも相当するものです。医療従事者がおこなう業務に起因する事故の総称です。過失が存在するものと、不可抗力(偶然)によるものの両方が含まれています。

インシデント・医療事故に遭遇すると「バレたくない」「怒られたくない」と思い報告しない人もいるかもしれません。そもそもインシデント・医療事故を報告する目的は、原因検索や再発防止対策を立てるためです。インシデント・医療事故を引き起こす医療環境をそのままにしておくこと自体がコンプライアンス違反になるだけでなく、コンプライアンス遵守の妨げとなる可能性があります。インシデント・医療事故を隠すために、カルテの改ざんや虚偽報告が必要となり、複数のコンプライアンス違反を重ねてしまうことも考えられます。

インシデント・医療事故を隠すことが横行している状況は、患者・医療者双方にとって望ましい環境ではありません。インシデント・医療事故を隠すのは絶対にやめましょう。

過去には、コンプライアンスを遵守しなかった事例として、以下が報告されています。

【事例1:医療事故】 大声を上げていた認知症入院患者を静かにさせるため、看護師がうつ伏せの状態の患者に布団をかぶせ、窒息死(胃から逆流した消化物が気道に詰まる)させた。
【事例2:医療事故】 患者の人工呼吸器の加温加湿器に、本来注入するはずの滅菌精製水と形状が酷似していた消毒用エタノールを誤注入し、死亡させた。
【事例3:不正受給】 生活保護受給者に対して不必要な治療を施し、診療報酬を不正受給した。なかには死亡した者もおり、病院は閉鎖され、事務長とカテーテル納入業者には有罪判決が下っている。
【事例4:情報漏えい】 非常勤研修医が患者情報(氏名、年齢、性別、検査画像等)をUSBメモリに無断コピーし、紛失した。病院ではパスワードなどのセキュリティ対策が講じられていなかった。

参考:病院経営管理指標

これらは、法的罰則および病院への刑事責任が問われたり、報道されたり社会的制裁が課されたりと、たった1つのコンプライアンス違反が問題となったケースです。

「このくらいならバレないだろう」ではなく、コンプライアンスを遵守する意味や必要性を理解し、自分自身の言動に細心の注意を払いたいですね。

看護師に求められるコンプライアンスを理解して働こう

コンプライアンス(法令遵守)は、どれだけ研修を行い院内規則を充足させても、個人が「コンプライアンス(法令遵守)違反しないようにしよう」と行動しなければ簡単に破られてしまいます。たった1人のコンプライアンス違反が病院や看護師のイメージを悪くしたり、地域の信頼や病院経営に影響を与えたりする可能性があります。

あらためてコンプライアンスの概念や必要性を理解し、自分自身の言動や行動に細心の注意を払い、リスク管理のできる看護師になりましょう。

参考

1)中小病院向けコンプライアンス体制構築のためのポイント みんなでコンプライアンス
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000084105_3.pdf
2)医療施設経営安定化推進事業 平成25年度 病院経営管理指標 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000084078_3.pdf
3)個人に関する情報と倫理 日本看護協会
https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/rinri/text/basic/problem/kojinjyoho.html
4)看護記録に関する指針 日本看護協会
https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/guideline/nursing_record.pdf
5)医療従事者が知っておきたい基礎知識 大阪府看護協会
http://www.osaka-kangokyokai.or.jp/CMS/data/img/iryoanzen_haisinn_201809.pdf
6)医療におけるコンプライアンスの重要性と業務上、身近な法律問題への対応法 前田尚一法律事務所
https://xn--zqsz8jspao5xhl1c.com/archives/other/shittoku41

小田あかり
この記事を書いた人
小田あかり
大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。

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