看護師のパワハラ・いじめ問題。職場で起こる事例と対処法を紹介

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看護師は同僚・患者など立場の異なる人と数多く関わります。医者や上司からうける指導や、自分の後輩へ発言が「パワハラ」に該当するかもしれません。今回は看護師の職場でおこりうるパワハラの事例と対処法を解説します。

看護師を悩ますパワハラとは

看護師は職業上さまざまな立場の人と関わるため、人間関係による悩みも多くなりがちです。さらに医療現場は常に緊張感がありストレスもたまりやすいので、人へのあたりが強くなるなどパワハラも起こりやすい環境といえるでしょう。

パワハラとは「パワーハラスメント(power harassment)」という英語を省略した言葉です。一般的には「同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為、または職場環境を悪化させる行為」と定義されています。

医療現場におけるパワハラ被害の実態

医療現場におけるパワハラ被害の実態について、解説していきます。

パワハラの種類

日本看護協会では、医療現場におけるハラスメントの種類を相手ごとに以下の7通りに分類しています。

患者 患者の家族等 同じ勤務先の職員
意に反する性的な言動 71.0% 6.4% 26.8%
身体的な攻撃 92.1% 4.9% 3.3%
精神的な攻撃 39.5% 20.4% 53.7%
人間関係からの切り離し 6.3% 2.8% 85.4%
過大な要求 13.4% 11.5% 72.6%
過小な要求 9.2% 4.0% 73.0%
個の侵害 69.0% 3.8% 85.4%

引用:1年間に受けた暴力・ハラスメントの相手(日本看護協会)

「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」などの精神的な被害は、主に勤務先の職員から受けていることがわかります。一方で「意に反する性的な言動」「身体的な攻撃」などの身体的な被害は、勤務先職員からの被害よりも患者からの被害が大きい傾向にあります。

看護師のおよそ半数がパワハラの被害に

看護師のパワハラ被害の割合

ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:304)

ナース専科のアンケートによると、パワハラの被害について「頻繁に被害にあう」「時々被害にあう」の回答を合わせると47%という結果になりました。およそ半数の看護師がパワハラの被害にあっているのが実状です。この結果を見ると、医療現場でパワハラに遭遇する可能性は低いといえません。

次に看護師が実際に受けたパワハラの事例を紹介します。

精神的な攻撃に該当するパワハラ被害が最多

どのようなパワハラを受けたかという質問に対する回答は、以下の通りです。

1位/人格否定や脅迫、暴言などの精神的な攻撃をうけた(35.81%)

2位/過剰なノルマや作業量を押し付けられる(14.33%)

3位/無視や孤立させられる、伝達事項が回されないなど仲間外れにされる(13.50%)

4位/その他(12.12%)

5位/プライベートなことに干渉される(9.37%)

6位/仕事を回されない、業務に関係ない雑用をさせられる(9.09%)

7位/暴力行為があった(5.79%)

※ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:228)

職場でうけたパワハラの種類についての質問では、脅迫や暴言、無視などの精神的な攻撃が多い傾向にあることがわかりました。緊張感の漂う医療現場だと、プレッシャーから不用意な発言も増えてしまうのでしょう。 

さらに「過剰なノルマや作業量を押し付けられる」は2番目に多く、業務量の多い医療現場ならではのパワハラが起きているようです。

パワハラの相手は上司や医師

パワハラをしてくる相手を聞いた質問に対する回答は以下の通りです。

1位/上司(33.33%)

2位/医師(26.02%)

3位/患者(14.36%)

4位/同僚(13.28%)

5位/患者家族(9.76%)

※ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:228)

職場でパワハラをしてくる相手は、上位を上司・医師などの上の立場にある人からのパワハラが多いことがわかりました。また、医師と患者さんとの間に立つ看護師という立場上、患者さんやそのご家族からのパワハラも少なからずあるようです。

医師・看護師・患者からのパワハラ事例

さまざまな立場の人がいる医療現場では、パワハラなのか判断がつきにくい事例もあります。そこでパワハラの事例を立場別にまとめてみました。

医師から受けることが多いパワハラ例
  • 同僚の目の前で叱責・指導する
  • 無視する
  • 適切な方法で指導・指示を行わない
看護師から受けることが多いパワハラ例
  • 無視する
  • 必要以上に長時間にわたり、繰り返し指導する
  • 適切な指導を行わず、仕事ができていないと不当な評価をする
  • 個人の能力を超えた仕事を配分する、配分された仕事が適切に行えないと叱責する
  • 個人の能力を過小評価し仕事を任せない(リーダー業務や夜勤をさせないなど)
  • 家族構成や交際相手、病気といったプライバシーを執拗に詮索する
  • 本人や家族・関係者の、不名誉・不利益な噂や悪口を故意に流す
  • 意図的に飲み会に誘わない
患者・患者の家族から受けることが多いパワハラ例
  • 叩く・殴る・蹴るなどの暴力行為
  • 物を投げられる
  • 個室やカーテンで囲われた場所で、過剰なケアやサービスを強要する
  • 特定の事象に対し、過剰に叱責したり、責任を追及したりする
  • 個人にとっての不名誉・不利益な噂を流す

看護師のパワハラの対処法

看護師がパワハラを受けたときの対処法についてまとめました。医療現場ではパワハラが起きやすい、という前提で、常に対策しておくと良いでしょう。

記録を残す

パワハラを受けた側が不快に感じていても、パワハラをした側はそのつもりではなかった、自分がしたことを覚えていなかった、ということはあります。そのため、パワハラだと感じたことは以下のような方法で記録に残して、後で見せられるようにしておきましょう。

  • 日記をつける
  • 写真を撮る
  • 録音する

身近な人に相談する

医療現場でのパワハラは、患者さんの精神状態などもあるため「自分が悪い」「仕方がない」と抱え込んでしまうケースが多いようです。少しでもおかしいと感じたら、1人で抱え込まずに家族・友人・同僚など、身近な人に相談してみましょう。

上司や院内相談窓口に相談する

相談先の窓口として一番考えられるのは「上司」です。主任や看護師長、規模の小さい医療機関は事務長や院長に相談しましょう。

院内の相談窓口

多くの病院には、パワハラの相談窓口を設置し対策を講じています。日本看護協会の調査によるとパワハラ対策を講じているのは病院・診療所の70%、有床診療所・施設では20~40%程度と、医療機関によって差があります。勤務先によっては相談窓口や具体的な対応策がない場合もあるため注意が必要です。

外部機関を活用する

相談できる身近な人がいない、上司や院内窓口には相談しにくいと感じたら、外部機関を活用してみましょう。

法律系の相談先

法律系の主な相談先は下記のとおりです。

  • 紛争調整委員会
  • 労働審判
  • 労働基準監督署
  • 弁護士

「紛争調整委員会」「労働審判」「労働基準監督署」は、労働基準法に則って公正に判断してくれる機関です。厚生労働省の「総合労働相談コーナー」に相談して、必要があれば紹介してもらえます。

慰謝料を請求したいときには弁護士がおすすめです。証拠の提出や相手の通知などもすべておこなってくれるので、普段業務で忙しいときにも対応可能です。相談だけなら無料の弁護士が多いので、まずは相談してみましょう。

相談窓口系

看護師のパワハラに関して相談できる窓口は、下記のとおりです。

  • 日本看護協会
  • ナースのはたらく時間・相談窓口
  • 総合労働相談コーナー(厚生労働省)

「ナースのはたらく時間・相談窓口」は、主に勤務時間に関する相談を受け付けています。超過労働を強いられたときなどは相談してみると良いでしょう。

「日本看護協会」は看護全般について相談を受け付けており、看護学生や研修生でも相談することができます。

「総合労働相談センター」は、厚生労働省が設置している相談窓口です。具体的に解決するわけではありませんが、解決に導くための手段を紹介してくれたりすることがあります。

一度職を離れる

周りには相談しにくい、相談してみても解決しないというときは、思い切って職を離れることも選択肢のひとつです。一時的に休職する、離職する、転職する、看護師の職を離れて異なる職場で働くなど方法は様々あります。時間をおいて自分のキャリアを見つめ直すこともオススメです。

看護師がパワハラが原因で転職する際の注意点

転職はパワハラに対処する方法のひとつですがリスクもあります。以下では看護師が退職・転職するときの注意点をまとめました。

退職時の注意点

特にパワハラが原因で退職するときは、伝えるタイミングや理由にも注意が必要です。

事前に退職規定を確認する

退職する前に、退職規定を確認しましょう。法律上、退職の申し出は2週間前とされていますが、引継ぎなどを考慮するとそのとおりには行きません。また、看護師は業務上、退職までの日数で有休を消化することはやりにくいため、有休を消化する日をきちんと決めておくと良いでしょう。

「会社都合で退職」がベスト

退職の理由は「会社都合」にしておくのがベストです。「自己都合」で退職にしてしまうと「失業給付金」の金額が大きく変わる可能性があります。会社都合の退職であれば、面接において大きなマイナスポイントになることはありません。

パワハラが転職・退職の理由とは言わない

パワハラを理由にしてしまうとネガティブな印象を与えてしまいます。パワハラは主観的なので、あくまでも客観的な事実のみを述べるようにしましょう。

転職時の注意点

パワハラが原因で転職するのであれば、パワハラのない職場に転職したいでしょう。以下では転職活動でとくに意識したいことをまとめました。

求人情報だけで判断しない

求職者に興味をもってもらえるよう、求人情報には良い情報しか載っていない可能性があります。表面的な情報のみで判断しないように確認しましょう。

職場口コミをみる

職場の口コミは、求人情報と異なり客観的な事実を知ることができます。少しでもパワハラ被害がある職場であれば、口コミの内容から知ることもできるかもしれません。

病院見学をする

事前に病院見学をして、院内の雰囲気を知っておくと良いでしょう。病院で働いている看護師がイキイキしているか、医師と看護師とのコミュニケーションはスムーズか、見学するだけでも知ることができます。

面接時に確認する

事前のリサーチが間に合わなくても、面接時に直接確認してみましょう。パワハラがあるかどうか、といった直接的な質問はできませんが、職場の雰囲気などをそれとなく聞けば、面接官も素直に答えてくれるはずです。

エージェントに相談する

職場の様子を知るために、転職エージェントに相談してみると良いでしょう。転職エージェントの多くは職場と良好な関係性を築くためによく出入りしています。求人情報に記載していないような、エージェント自身が感じた印象を教えてくれるので、気になる人は以下のリンクからチェックしてみてください。

参考:ナース人材バンク

「パワハラかな?」と思ったら一人で溜め込まず相談しよう

看護師として働いていると、パワハラの被害者にも加害者にもなる可能性があります。もしも「パワハラかな?」と思うことがあれば、一人で溜め込まないようにしましょう。パワハラが原因で、看護の仕事が嫌になってしまう、心の病気になってしまうことは避けなければなりません。このようなつらい経験をしないためにも、どのような行為がパワハラかを理解し、院内や外部に相談できる場所を把握しておきましょう。

小田あかり
この記事を書いた人
小田あかり
大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。

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