看護師の生活や今後のキャリア形…
看護師の働き方改革。労働環境・ワークライフバランスの展望は?
公開日:2023/1/31
最終更新日:2023/1/31
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2019年4月に施行された「働き方改革関連法」。看護師が働く職場でも例外なく様々な取り組みが行われています。施行から数年が経過した今、看護師の労働環境の課題と理想のワークライフバランスを叶える働き方改革推進の現状と取り組み事例に関して解説します。
目次
看護師が理想のワークライフバランスを叶えるための課題
ワークライフバランスとは仕事とプライベートの2つを調和させて双方を充実させる働き方や生き方のことを意味します。自分の理想ワークライフバランスを叶えることは、やりがいや喜びを得ることにもつながるため、ないがしろにはできません。
しかし看護師は夜勤・休日出勤などの不規則な勤務形態や、責任感が伴い突発的な職務内容が多いことによってワークライフバランスが崩れがちです。さらには、看護師は女性が多く結婚や出産などのライフイベントの影響を受けやすいため、仕事とプライベートとの両立が難しくなり離職率も高い傾向にあります。
このような課題を踏まえて、看護師それぞれが自身の働き方に目を向け、職場環境をより良くするためのアクションが重要になります。
看護師のワークライフバランスの理想と現実
看護師が描く理想のワークライフバランスの割合と現状の割合でどれだけ乖離があるのかを知るために、以下のようなアンケート調査を行いました。
看護師が現実的に感じるワークライフバランスの割合
Q:現在のワークライフバランス(仕事と生活の調和)の割合はどのくらいだと考えますか?
1位/仕事7:プライベート3(25.07%)
2位/仕事5:プライベート5(19.14%)
3位/仕事6:プライベート4(15.28%)
4位/仕事8:プライベート2(12.61%)
5位/仕事4:プライベート6(8.75%)
ナース専科調べ(2021年9月29日/有効回答数:674)
現在のワークライフバランスの割合についての質問の回答を大きく三つに分けると「仕事の割合が多い」(仕事の割合6~9割)と答えた人は、約60%に達していました。「仕事とプライベートが半々」は約19%、そして、「プライベートの方が多い」(プライベートの割合6~9割)という人は合計約21%という結果でした。
ワークライフバランスの現状評価は時間数だけでなく、仕事とプライベートの精神的な負担や気持ちの余裕によるところが大きく、この結果から仕事がプライベートを圧迫しているという現状が見えてきます。
看護師の理想とするワークライフバランスの割合
働いている看護師さんは、仕事と生活のバランスがどのくらいの割合が理想と考えているのでしょうか。
Q:理想のワークライフバランス(仕事と生活の調和)の割合はどのくらいだと考えますか?
1位/仕事5:プライベート5(38.87%)
2位/仕事3:プライベート7(22.11%)
3位/仕事4:プライベート6(19.88%)
4位/仕事6:プライベート4(6.38%)
5位/仕事2:プライベート8(6.08%)
ナース専科調べ(2021年9月29日/有効回答数:674)
ナース専科のアンケートでは、理想の割合は、5:5と答えた人が38.9%となっており、仕事もプライベートも平等なバランスを取りたい人が一番多い結果でした。一方で、プライベートの割合を多く答えた人が半数以上に上っています。看護師の仕事は24時間体制でシフト制のことが多く、元々ワークライフバランスが取りにくい職場です。理想のワークライフバランスとしてせめてプライベートの割合を大きくしたいという希望が反映された結果となりました。
看護師のワークライフバランスを推進する
看護師のワークライフバランスの推進に関しては、日本看護協会が2016年から取り組んでおり、特設Webサイトもあります。(看護職のワークライフバランス特設サイト)このサイトでは、独身者も既婚者も、子どもがいるいないにかかわらず、働く側が柔軟な働き方ができる環境整備の側面だけでなく、雇用する側にとっても離職率の低下や人材の定着といった経営戦略として認識する必要があると説明されています。
看護師のワークライフバランスは、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」と無関係ではありません。その成り立ちと環境整備をしっかり理解したうえで、職場環境を整えることが、理想の働き方に近づく一歩になるのではないでしょうか。次のパートでは「働き方改革関連法」の内容についてみていきましょう。
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政府が推進する「働き方改革」とは
働き方改革とは国は一億総活躍社会の実現に向けて、「働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革」を総合的に推進するための取り組みです。労働に関連する8つの法律の改正をひとつにまとめた「働き方改革関連法」が2019年4月1日に施行しました。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」と言います。
働き方改革関連法の3つの柱
1.労働時間の是正
2.正規、非正規間の格差解消
3.多様な柔軟な働き方の実現
施行から2年以上が経過し、一億総活躍社会の実現という言葉はほとんど聞かれなくなりました。しかし、「働き方改革関連法」は今後ますます加速する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や働き方の多様化にともなう「育児や介護との両立など、働く人々のニーズの多様化」などの課題を解決するために、政府が主導して取り組んでいます。働き方改革は、それぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
看護師の働き方改革推進の現状と取り組み事例
当初は大企業(大病院)に限られていた「働き方改革関連法」ですが、2020年4月からは中小企業(中小の病院・クリニック・施設など)にも適応され、どの職場でも無関係ではいられない状況となりました。特に医療現場で取り組むべき内容と現状、実際の取り組み事例について解説します。
データで考察する看護師の働き方改革の現状
働き方改革が施行されたことで看護師の労働環境も変化を余儀なくされています。
特に以下の3つの取り組みが求められています。
1.時間外労働の罰則付き上限規制
2.年次有給休暇、年5日の取得が義務付け
3.労働時間の状況把握の客観的記録
ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:304)
ナース専科で実施した、勤務先の働き方改革への取り組みについてどのように感じているか調査したアンケートでは、「積極的に取り組んでいる」「まあまあ取り組んでいる」を合わせて51%となりました。一方「まったく取り組んでいない」と答えたのは25%を超えています。法律施行から2年以上経過により、徐々に取り組みが現場でも実感されてきていることがわかります。
働き方改革の取り組み事例
さらに、働き方改革の取り組みによってどのような点が改善されたと感じるかについて質問したところ、以下のような回答が得られました。
Q:働き方改革の取り組みによって改善された点を教えてください。
1位/有給休暇の推進(53.8%)
2位/長時間労働の改善(53.8%)
3位/業務効率の改善の取り組み(46.84%)
4位/多様な働き方の推進(29.75%)
5位/高齢者雇用の促進(定年引上げ、シニア雇用促進)(14.56%)
ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:158)
看護師が働く職場でも、改善されたと実感できる点がいくつかあることがわかりました。以下では具体的に改善された点についてご紹介します。
事例1:有給休暇取得の推進と長時間労働の改善
働き方改革の3つの柱でもある有給休暇取得の推進や、長時間労働の改善への取り組みは看護師の職場でも積極的に見直されていることがアンケートの結果からも読み取れます。
さらに時間外労働に関しては、前残業と呼ばれる就業時間前の情報収集の時間だけでなく、制服の更衣の時間や業務に関する研修も労働時間にカウントされるということが法案にも明文化されています。以前は勤務時間の線引きが曖昧でしたが、このような労働時間の見直しがされている職場も多いようです。
事例2:時短勤務・テレワークなど多様な働き方の推進
アンケートの回答で4位にあがった多様な働き方では、時短や週4日常勤・フレックス勤務・非常勤としてダブルワーク推進などが広がるなか、一例としてテレワークも進んでいます。
元々、看護師が対応するコールセンター・電話相談などの仕事はテレワークが進められていましたが、現場の看護師でもテレワークを導入する病院があります。
ある病院では、新型コロナウイルス感染症患者受け入れ病棟で一か月間勤務した看護師を交代で、在宅型テレワーク5日間と公休2日間の勤務を計画し実施しています。この取り組みは看護師でも工夫次第でテレワークが可能であることが示されると同時に、コロナ禍で心身をすり減らしながらがんばる看護師の現状を理解し、どのようにしたらフォローできるかを考えた素晴らしい取り組みだと賞賛されています。
およそ半数の職場ではいまだに取り組み事例がない
アンケートの結果から見ても具体的な取り組み事例・改善された点が上がる一方で、改善の取り組みを評価していない、具体的な対策がないという職場もあります。働き方改革といっても、課題や原因は職場や職種それぞれに異なることもあり、組織として取り組むべき具体的な対策が分からず動けていない状況にあるのかもしれません
「働き方改革」が目指すもの
公益社団法人日本看護協会が夜勤等を行っている病院等と看護職員を対象に、2019 年に「病院および有床診療所における看護実態調査」を実施しました。その結果、以下の問題の改善が求められていることが明らかになりました。
- 長時間労働の常態化、前残業、持ち帰り業務、勤務時間外の研修等、カウントされない時間外労働と未払い残業問題の常態化
- 暴力・ハラスメントにより心身の健康を脅かされる看護職の増加
- 多様な働き方や能力・役割・成果 に対する公平な評価・処遇
参考:2019年 病院および有床診療所における看護実態調査 報告書(日本看護協会)
この結果を踏まえて「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」が2021年3月に発表されました。
5つの要因 | 「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」(10 項目) |
---|---|
1.夜勤負担 | 1)勤務間隔は 11 時間以上あける(勤務間インターバルの確保) 2)勤務拘束時間 13 時間以内とする 3)仮眠取得の確保と仮眠環境の整備をする 4)頻繁な昼夜遷移が生じない交代制勤務の編成とする |
2.時間外労働 | 5)夜勤・交代制勤務者においては時間外労働をなくす 6)可視化されていない時間外労働注を把握し、必要な業務は所定労働時間に取り込む 注)業務開始前残業(前残業)や持ち帰り業務、勤務時間外での研修参加等(業務時間外残業) |
3.暴力・ハラスメント | 7)暴力・ハラスメントに対し、実効性のある組織的対策を推進する 8)上司・同僚・外部からのサポート体制を充実させる |
4.仕事のコントロール感 | 9)仕事のコントロール感を持てるようにする |
5.評価と処遇 | 10)仕事・役割・責任等に見合った評価・処遇(賃金)とする |
看護師の就業場所は拡大しているにもかかわらず、少子高齢社会で看護職の増加が見込めないため、看護提供体制を維持するためには雇用する側もされる側も大幅な意識改革が必要な状況です。この内容を現実のものにしていくのは自分たちであるという、各自の自覚も必要です。
看護師の理想のワークライフバランスを実現するためには
看護師の労働環境も、政府が推進する「働き方改革」の例外ではありません。しかし、働き方改革の動きが社会全体としてあるなかで、いまだ具体的な対策がされていない労働環境も存在します。看護師が理想のワークライフバランスを実現するためには、看護師自身が働き方改革の必要性を意識することが大切です。雇用する側だけではなく雇用される側も双方で少しでも働きやすいように環境を整えていくことが、看護業界の真の変革になるのではないでしょうか。
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引用・参考
2)2019年 病院および有床診療所における看護実態調査 報告書(日本看護協会)
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この記事を書いた人白石弓夏
- 1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。