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特定看護師とは?研修の流れと費用・給料アップなどメリットを解説
公開日:2023/3/29
最終更新日:2023/3/29
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在宅医療の需要が高まり、さらなる活躍が期待される特定看護師になるには、特定行為研修を修了する必要があります。研修の流れや費用、給料事情から比較されやすい認定看護師との役割の違いまでを解説していきます。
目次
特定看護師とは?制度から研修内容を解説
特定看護師とは、2015年10月に厚生労働省が施行した「特定行為に係る看護師の研修制度」によってうまれた名称です。団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、更なる在宅医療の推進を図る目的で保健師 助産師看護師法の一部改正によって作られました。
「特定看護師」は資格の名称ではなく、特定行為研修を終了した看護師のことをいいます。特定行為研修を終了した看護師は、医師の指示をその都度仰ぐことなく、患者に必要なケアを実施することが可能となります。
特定行為研修の内容
「特定行為研修」とは、看護師が医師の作成した「手順書」により特定行為を行う際に必要な専門知識と技術を向上するための研修です。特定看護師になるには、21の分野、38の特定行為から必要科目を選択し、「特定行為研修」を受講、修了する必要があります。研修内容には、「共通科目」と「区分別科目」があり、いずれの科目も修了させなければなりません。
特定看護師と認定看護師・診療看護師の違い
特定看護師と特徴が似ている資格に、認定看護師と診療看護師がありますが、それぞれの違いについて解説します。
役割 | 教育 | 特徴 | |
---|---|---|---|
特定看護師 | 実践 | 共通科目 250時間 区分別科目 5〜34 時間 |
医師作成の「手順書」に基づいて、看護師が患者の状態を見極め必要なケアを提供する |
認定看護師 | 実践・指導・相談 | 600〜800 時間 | 患者への直接的ケアだけでなく、看護職への指導、支援を行う |
診療看護師 | 医師や他職種との連携・協働 | 大学修士課程で 43 単位 | ・「手順書」により特定行為を行う ・医師や薬剤師との協働を図り、タイムリーな診療を行う |
それぞれ名称や特徴が似ていますが、いずれもそれぞれ異なった役割を担っていることがわかります。特定看護師は、より患者の近いところで的確な状況判断を行い、患者に専門的な知識と技術を提供するスキルが必要です。
詳細な仕事内容や資格取得の方法については、下記の記事を参考にしてください。
看護師が特定行為を実施する手順
看護師が特定行為を実施するには、手順があります。ここでは、看護師の特定行為に必要な「手順書」と実施の流れについて解説します。
手順書とは?
手順書とは、「医師または歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるために、その指示として作成する文書」です。手順書には、以下の6つの内容が記載してあります。
- 看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲
- 診療の補助の内容
- 当該手順書に係る特定行為の対象となる患者
- 特定行為を行うときに確認すべき事項
- 医療の安全を確保するために医師又は歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制
- 特定行為を行った後の医師又は歯科医師に対する報告の方法
手順書はいわば、医師からの「事前指示」です。通常の看護師が行う処置の手順は、患者に異変が確認された際に医師に報告、指示を受けた後に処置を行う流れです。しかし特定行為研修を受けた看護師は、手順書があることで、医師の指示を待たずに必要な処置を行うことが可能となります。
注意点としては、手順書にはその行為の手順が丁寧に記載されているわけではないということです。また、「当該手順書に係る特定行為の対象となる患者」の項目については、患者の個人情報ではなく、特定行為を行ううえで必要な「患者の条件」が書かれています。手順書は、患者ごとに作成されるものではない点も覚えておきましょう。
厚生労働省では、特定行為に係る手順書例集を紹介しています。
参考:厚生労働省 平成27年度 看護職員確保対策特別事業 「特定行為に係る手順書例集作成事業」 特定行為に係る手順書例集
特定行為を実施するまでのステップ
看護師が特定行為を実施するまでのステップを4つに分けて解説します。
1:患者の観察により、処置が必要である可能性を疑う
看護師が患者を観察した際に異変に気づき、処置が必要である可能性かどうかを見極めます。患者の状況を的確に判断する高度なスキルが求められます。
2:手順書の確認
患者の状態が、手順書に記載された「当該手順書に係る特定行為の対象となる患者」、「患者の病状の範囲」であるかを確認します。
3-a:病状の範囲内である場合
手順書の「診療の補助内容」に記載された処置を行います。「特定行為を行うときに確認すべき事項」に沿って患者の状態を確認。手順書に従って、必要があれば医師へ報告します。
3-b:病状の範囲外である場合
医師に患者の状態を報告します。医師への連絡は、手順書「医療の安全を確保するために医師又は歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制」に沿って行います。
4:医師に結果を報告する
手順書の「特定行為を行った後の医師又は歯科医師に対する報告の方法」を確認し、患者の状態と行なった特定行為内容の報告と記録を行います。
看護師が行える特定行為の一覧
特定行為は診療の補助の一つで、看護師が特定行為行う場合には実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が必要とされます。看護師が行える特定行為は21区分、38の行為に分類されています。
看護師が行える特定行為一覧
特定行為区分の名称 | 特定行為 |
---|---|
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 | 経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整 |
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 侵襲的陽圧換気の設定の変更 |
非侵襲的陽圧換気の設定の変更 | |
人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の 調整 |
|
人工呼吸器からの離脱 | |
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 気管カニューレの交換 |
循環器関連 | 一時的ペースメーカの操作及び管理 |
一時的ペースメーカリードの抜去 | |
経皮的心肺補助装置の操作及び管理 | |
大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助 の頻度の調整 |
|
心嚢(ノウ)ドレーン管理関連 | 心嚢(ノウ)ドレーンの抜去 |
胸腔ドレーン管理関連 | 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更 |
胸腔ドレーンの抜去 | |
腹腔ドレーン管理関連 | 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された 穿(セン)刺針の抜針を含む。) |
ろう孔管理関連 | 胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボ タンの交換 |
膀胱ろうカテーテルの交換 | |
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 中心静脈カテーテルの抜去 |
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関 連 |
末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
創傷管理関連 | 褥瘡(じょくそう)又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 |
創傷に対する陰圧閉鎖療法 | |
創部ドレーン管理関連 | 創部ドレーンの抜去 |
動脈血液ガス分析関連 | 直接動脈穿刺法による採血 |
直接動脈穿刺法による採血 | |
透析管理関連 | 急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析 濾 過器の操作及び管理 |
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 |
脱水症状に対する輸液による補正 | |
感染に係る薬剤投与関連 | 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | インスリンの投与量の調整 |
術後疼(トウ)痛管理関連 | 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整 |
循環動態に係る薬剤投与関連 | 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 |
持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整 | |
持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 | |
持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整 | |
持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 | |
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 | 抗けいれん剤の臨時の投与 |
抗精神病薬の臨時の投与 | |
抗不安薬の臨時の投与 | |
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整 |
看護師はこれら各領域の必要な特定区分・行為を選択し、特定行為研修を受講します。
特定看護師になるには?研修のスケジュールから費用まで
特定看護師になるには、厚生労働省の指定研修機関で「特定行為研修」を受講・修了する必要があります。指定研修機機関は病院や大学、大学院など全国に272機関(令和3年時点)あり、機関によって受講可能な研修も異なります。厚生労働省のホームページに、指定研修機関の一覧が掲載されているので、確認してみましょう。
ここからは、特定行為研修の受講条件やスケジュール、受講費用など覚えておきたい注意点を解説していきます。
参考:【特定行為に係る看護師の研修制度】指定研修機関について
特定行為研修の受講資格
特定行為研修の受講資格があるのは、「国内の看護師免許」を保有している人に限ります。准看護師は対象外のため、注意しましょう。
特定行為研修の受講条件
特定行為研修の受講条件は、指定研修機関によって異なります。受講条件の例としては以下があります。
- 実務経験年数
- 所属長の推薦
- 看護師賠償保険の加入
特定行為研修の受講者は3〜5年の実務経験があることを対象として作られたものであるため、実務経験は必須条件といえます。受講先研修機関の募集要項を確認してみましょう。
看護師として働きながら特定行為研修を受講することはできる?
特定行為研修は、看護師として働きながらでも受講可能です。特定行為研修では、e
-ラーニングを導入している研修機関が多く、講義の大部分をオンラインで済ませることができ、働く看護師がより受講しやすい環境となっています。
また施設管理者や看護管理者は、研修受講中の看護師に対して身分保障や研修にあたっての勤務日の調整などを行う必要があります。働きながら特定行為研修を受講するにあたっては、所属先の責任者とよく相談のうえでスケジュールを組むようにしましょう。
特定行為研修の受講スケジュールと内容
特定行為研修の受講スケジュールは研修機関によって異なります。スケジュールの一例を紹介します。
参考:日本看護協会「神戸研修センター・2023年度 特定行為研修募集要項」
特定行為研修の内容
特定行為研修では「共通科目」と「区分別科目」を受講する必要があります。
- 共通科目
すべての特定行為区分に共通して必要とされる能力を身につけるための研修で、研修時間は約250時間です。 - 区分別科目
特定行為の区分ごとに必要とされる能力を身につける研修で、研修時間は5〜34時間と、分野によって異なります。
領域別パッケージ研修とは
「領域別パッケージ研修」とは、実施頻度が高いとされる特定行為がパッケージ化された研修のことです。特定行為区分のうち、一部の特定行為の研修を受講することで、短い時間で研修を修了し、より早く実践の場で活躍することが可能です。2023年現在、領域別パッケージ研修は以下の6領域となっています。
- 在宅・慢性期領域
- 外科術後病棟管理領域
- 術中麻酔管理領域
- 救急領域
- 外科系基本領域
- 集中治療領域
領域別パッケージ研修で注意したいことは、研修が免除された特定行為は実施できない点です。研修受講の目的や必要性を責任者と相談しながら明確にし、必要な特定行為研修を受けられるようにしましょう。
特定看護師になるためにかかる費用
福島県立医科大学看護師特定行為研修を参考に、特定行為研修の受講にかかる費用をまとめました。
共通科目 | 42万3000円 (必須の区分別科目を含む) |
---|
区分別科目(一部) | 呼吸器(気道確保に係るもの)関連 | 3万円 |
---|---|---|
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 8万5,000円 | |
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 2万8,000円 | |
循環器関連 | 6万円 | |
創傷管理関連 | 9万円 | |
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 | 7万6,000円 | |
在宅・慢性期領域パッケージ | 18万3,000円 |
引用:令和5年度 福島県立医科大学看護師特定行為研修・募集要項
共通科目と区分別科目を合計すると、40〜60万円ほどの費用がかかります。特定行為研修には、「教育訓練給付制度」や「人材開発支援助成金」など、費用の一部を負担してくれる制度も利用が可能です。支援制度もうまく活用しましょう。
特定行為研修を受ける際の注意点
看護師の特定行為は各施設のニーズに合わせて受講することで、身につけた知識・技術を発揮することができます。特定行為研修の受講を検討する際は、職場の上司に相談のうえ看護師の特定行為に関する職場のニーズを把握し、目的を明確にしてから受講することが大切です。
特定看護師になると給料・年収に影響はある?メリットを解説
ここからは特定看護師になるメリットについて、キャリア・給料・年収の面から解説します。
患者にタイムリーなケアを提供できる
通常の看護業務では、患者に異変があった場合、医師に状態を報告し指示を待たなければならず、必要な医療の提供までに時間を要します。医師とすぐに連絡が取れなかったり、指示がなかなかもらえかったりと、患者にスムーズな処置ができないもどかしさを感じた経験がある看護師も多いでしょう。看護師が特定行為を行えるようになることで、患者にタイムリーなケアを提供するメリットがあります。
キャリアアップにつながる
医療の専門知識と技術を持った特定看護師は、看護師としてキャリアアップにつながる可能性も高まります。特定行為ができることで業務の幅が広がり、周囲からの評価を受けやすくなるでしょう。医療の高度化や看護ニーズの増加に伴い、高い専門知識と技術を持った看護師が重要な存在となります。
給料アップが期待できる
特定看護師としての手当を支給されている看護師は全体の26%と低めの水準となっています。よって特定看護師はかならず手当がもらえるわけではない点に注意しましょう。ただ、スキルアップのために研修を受ける姿勢や、実際の現場での活躍によっては評価が上がり給料アップが期待できます。可能であれば、研修を受ける前に責任者へ確認してみるのも一つの方法です。
特定看護師が活躍する職場から今後のニーズを分析
ここからは特定看護師の就労状況をふまえ、活躍できる職場や今後のニーズについて解説します。
特定看護師の就業状況
2022年3月の時点で、特定行為研修を修了した看護師(特定看護師)は4832人と、年々増加しています。特定行為研修を修了した看護師の就業状況としては、病院や訪問看護ステーションなどが多い傾向です。
特定看護師が活躍する職場
看護師の特定行為は、急性期・慢性期関係なく活かせるスキルですが、そのなかでも活躍できる職場を紹介します。
訪問看護ステーション
在宅医療の推進により、特定看護師の需要は年々高まっています。訪問看護では看護師が利用者の自宅に訪問、身体状況を観察して必要な処置を行います。利用者の異常にいち早く気づき、必要に応じて特定行為を実践できる特定看護師が活躍できる職場でしょう。
急性期病院・病棟
急性期の患者は状態の変化が大きく、状況に合わせた迅速な処置が必要です。「外科術後病棟管理」「外科系基本領域」など、急性期にかかわる特定行為もパッケージ化されていることから、特定看護師の活躍が期待されている職場です。
救命救急センター
患者の緊急度が高い救命救急センターでも、迅速な医療処置が求められます。的確に状況判断を行い、必要に応じて特定行為を行える看護師の力が必要とされる職場です。
手術室
手術室の看護師は、高度な知識と技術が求められます。特定行為研修では、「術中麻酔管理領域」のパッケージ研修も実施されており、特定看護師の活躍が期待されている職場といえます。
特定看護師のニーズは今後も増えることが予想される
もともと在宅医療推進の目的で作られた制度であり、在宅医療の需要が高まっていることで、訪問看護も質の高い効果的なケアが必要です。また、感染症の拡大により人工呼吸器やECMOなどを使用する重症患者に対応できる高度なスキルを持った看護師の確保が求められる状況になったことから、今後の緊急的な状況での医療体制確保のためにも貴重な存在となるといえるでしょう。
特定看護師をスキルアップの選択肢のひとつに
特定看護師とは、前述した通り保健師助産師看護師法の改正で作られた特定行為研修を修了した看護師のことです。特定看護師になるためには厚生労働大臣指定の研修機関で特定行為研修を受講する必要があります。特定行為研修を受講することで、手順書をもとに医師の指示を待たずに医療処置を行えるようになり、患者にタイムリーな医療処置を提供できるというメリットがあります。
在宅医療需要が高まり、今後も特定看護師のニーズは増えていくことが推測されます。スキルアップの選択肢のひとつとして、検討してみてはいかがでしょうか。
参考
厚生労働省「医療関係者の皆さまへ これからの医療を支える看護師特定行為研修制度・ご案内」
厚生労働省「施設管理者・看護管理者の皆さまへ これからの医療を支える「看護師の特定研修のご案内」
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この記事を書いた人伊藤雪乃
- 2003年に看護師免許取得後、北海道の公立病院に5年間勤務し、地域医療をに携わる。その後埼玉県の介護施設(ショートステイ)で3年、整形外科病院に10年勤務。 2018年ごろから副業でライターをはじめ、現在はウェブと書籍に携わるフリーライターとして活動中。 2022年11月発売「私立文章女学院」編集協力