医療介護業界が抱える課題である…
潜在看護師とは?人数・ブランク期間の実態・活用できる復職支援制度を解説
公開日:2023/3/6
最終更新日:2024/1/12
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全国に71万人存在すると言われる潜在看護師。本記事では、厚生労働省のデータをもとに潜在看護師の離職期間や復職率などを紹介します。ブランクのある看護師に向け、復職支援制度や実際に復職した看護師の事例とあわせておすすめの働き方などを解説します。
目次
潜在看護師とは?定義から潜在人数などのデータを解説
潜在看護師とは看護師あるいは准看護師免許を保有している65歳以下の人のうち、衛生行政報告例で報告されている就業場所で働いていない看護師のことを指します。潜在看護師になった理由は子育てや介護、キャリアチェンジなど多岐にわたり、慢性的な看護師不足の影響もあって潜在看護師に注目が集まっています。
データから考察する潜在看護師の実態
2012年の厚生労働省の報告では、潜在看護師は全国で約71万人と推計されています。看護師の就業者数は約154万人で、看護師有資格者のうち3人に1人が潜在看護師なのです。また、潜在看護師の割合は年齢ごとに大きく異なります。
もっとも潜在看護師の割合が少ないのが、看護学校卒業後5年未満の25歳未満で「13.02%」。一番多いのが妊娠・出産・子育てをする人の多い35~39歳の「34.15%」です。
【年齢別にみる潜在看護師の割合】
年代 | 潜在率(%) |
---|---|
25歳未満 | 13.02 |
25~29歳 | 25.00 |
30~34歳 | 25.84 |
35~39歳 | 34.15 |
40~44歳 | 22.24 |
45~49歳 | 24.70 |
50~54歳 | 14.92 |
55~59歳 | 28.48 |
60~64歳 | 49.18 |
65歳以上 | 65.65 |
全年代平均 | 28.37 |
抜粋:厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業) 「新たな看護職員の働き方等に対応した看護職員需給推計への影響要因と エビデンスの検証についての研究」 分担研究報告書(令和 2 年度)
【離職期間】
離職期間とは、看護に関する仕事を辞めてから現在までの期間を表す言葉です。厚生労働省の調査では、離職期間を5年未満と回答した潜在看護師が約半数の45.5%を占めています。一方で10年以上離れている看護師も一定数存在し、復職のタイミングに悩んでいることがうかがえます。
離職期間 | 割合(%) |
---|---|
1年未満 | 17.0 |
1~3年未満 | 18.2 |
3~5年未満 | 10.3 |
5~10年未満 | 17.4 |
10~15年未満 | 11.1 |
15~20年未満 | 6.9 |
20年以上 | 14.1 |
無回答 | 5.0 |
引用:看護職員就業状況等実態調査結果 P17 表22 離職期間
【復職を希望する割合】
看護職員として復職を希望する潜在看護師は全体の36.1%を占めています。また、離職後3年未満の潜在看護師の約半数が復職を希望している一方で、離職期間が長くなるにつれて、復職を希望する割合は顕著に減少していることが明らかになりました。
引用:看護職員就業状況等実態調査結果 P17 図10 離職期間別・今後の再就職希望
潜在看護師が「復職しない要因」と「できない理由」
潜在看護師が復職しない要因、復職できない理由はなんでしょうか?厚生労働省の調査をもとに考察します。
要因と理由①:ライフステージの変化
「結婚」「出産や育児」「介護」などライフステージの変化は、離職を決断する大きな要因のひとつです。看護師の多くがシフト制で勤務しているため、離職前と同じ働き方ではワークライフバランスを保つことは難しいでしょう。
子どもの預け先が確保できず超過勤務や夜勤、土日祝日の勤務ができないなど、現在のライフスタイルと勤務形態があわないことから、復職を断念するケースも多いようです。
要因と理由②:スキル面の不安
医療技術は日進月歩で進化しています。厚生労働省の調査によると、「今後看護職として働きたい」と回答した潜在看護師のうち、再就職において最も不安に感じていることは「最新の看護の知識・技術に対応できるか(33.4%)」でした。
新人看護師に対しては研修システムが整っていますが、経験者である潜在看護師に対する研修システムはまだ不十分な施設や病院が多いのも現状です。
厚生労働省の調査によると、8割近くの潜在看護師が再就職前後に研修を希望していますが、実際に復職した潜在看護師のうち、研修を受けた看護師はわずか19.0%にとどまっています。
要因と理由③:復職支援制度の不足
以下の図は、厚生労働省が潜在看護師に対し再就職をするために必要な支援・活用したい制度および、再就職の際に受けた支援・活用した制度ついて調査した結果です。
引用:看護職員就業状況等実態調査結果 P31 図27 再就職の際に受けた支援・活用した制度等
再就職前は多くの潜在看護師が「時間外労働の免除」や「休日労働の免除」、「短時間勤務」など様々な支援や制度の活用を希望していますが、実際には約半数が何の支援や制度も活用せずに再就職しています。
例えば育児中の場合、復職にあたって家族の協力はもちろんですが職場の理解やサポートも不可欠です。復職後の理想の働き方と現実のギャップも、復職できない理由のひとつといえるでしょう。
離職してからブランク期間を経ての復職事例
看護師は離職してからブランク期間があっても復職することは可能な職業です。また、現在の医療現場の人手不足を解消しようと潜在看護師の積極的な登用が現場でも推奨されています。そこで実際の潜在看護師の復職率と復職の事例を紹介します。
潜在看護師の復職率
厚生労働省の調査によると、看護に関する仕事に復職した潜在看護師の割合は75.6%、再就職していない割合は14.7%でした。再就職までの期間ごとに見ていくと、離職期間の短い潜在看護師の方が再就職の割合が高くなる傾向にありましたが、ブランク10年以上の潜在看護師も400人以上が復職しています。
引用:看護職員就業状況等実態調査結果 p29 表31再就職までの期間
ブランク期間を経て看護師に復職した事例
ブランク期間を経て復職に成功した潜在看護師の事例を紹介します。
事例①:働くママへの支援が充実している職場へ復職。仕事と子育ての両立が実現
「以前は急性期病棟で忙しい毎日を送っていましたが、妊娠・出産をきっかけに育児に専念するため退職。子供が3歳になり手が離れてきたので、復職を決意しました。以前と同じような夜勤や残業の多い職場への復職はあきらめていましたが、時短勤務と夜勤の免除、休日出勤回数の軽減などの支援が充実している急性期病棟へ復職。今までの経験を活かしつつ、ライフスタイルを考慮して働けています」/Aさん、20代後半女性
事例②:就職する施設の復職支援研修を受けスキルへの不安が軽減
「結婚と転居をきっかけに退職しました。新しい生活にも慣れ、一年ぶりに復職を決意。臨床から離れていた期間は短くても、採血や注射・感染対策などスキルに不安を感じ、復職を迷っていましたが、復職者向けの研修を行っている総合病院を発見。配属先に合わせた知識やアセスメントの学習と、基礎看護技術の両方のサポートを受けることができ、心の準備をしてから復職することができました」/Bさん 20代女性
事例③:心身のバランスを崩し看護師を離職。単発バイトをきっかけに看護師に復職、春からクリニックの正職員へ
「多忙な集中治療室勤務で心身のバランスを崩し退職しました。5年ほど非医療系の仕事をしていましたが、新型コロナワクチン接種を行う看護師が不足しているというニュースを知り、臨床への復帰を考えるように。初めは単発のワクチンバイトからスタート。コロナ療養者向けコールセンターの日勤業務や、コロナ療養ホテルの夜勤バイトも経験しました。
看護の仕事が好きだということに改めて気づき、本格的な復職を決意。身体を慣らすためにも日勤がメインのクリニックで正社員として働きはじめ、充実した毎日を送っています」/Cさん 30代男性
復職を検討する潜在看護師におすすめの職場の特徴と働き方
復職先を検討するにあたり大切なことは、職場とのミスマッチを防ぐことです。
ここからは、復職を検討する潜在看護師におすすめの職場の特徴や働き方を紹介します。復職先を探す際にぜひ参考にしてください。
潜在看護師におすすめの職場の特徴
潜在看護師におすすめの職場には、大きく分けて次の2つの特徴があります。
特徴①:託児や保育施設などの支援が充実している
育児をしながら復職する場合、子育てへの支援制度が充実している職場を選ぶとよいでしょう。
院内に託児所や保育施設が併設されているのが一番望ましく、延長保育や病児保育が整っているとより働きやすくなりますが、夜勤や土日・祝日勤務など勤務形態により利用可否が変わるので、復職先の勤務体系と託児・保育可能時間が合致しているか事前に確認が必要です。
また、院内の託児所利用が難しかった場合、病院と自宅から通いやすく融通の利く外部託児所を見つけておくようにしましょう。
特徴②:復職に向けた研修制度が整っている
さまざまな不安を抱える潜在看護師が安心して復職できるように、復職前に受講できる研修制度があります。再就職した潜在看護師の多くが入職先の施設で行われる研修を受講していますが、そのほか各都道府県のナースセンター(ナースバンク)などの施設や医療機関が主催している復職支援研修制度の活用もおすすめです。
復職支援研修では採血・点滴・吸引などの看護技術、PPE着脱手順などの感染予防対策、一次救命処置(BLS)、認知症患者への対応、看護倫理などポイントをおさえて学ぶことができます。
また、東京都など一部地域では復職支援研修を受講して再就職すれば奨励金が出るケースもあります。居住地で利用できる研修制度、入職先の病院にどんな研修制度があるか、また教育システムはどうなっているか確認するといいでしょう。
潜在看護師におすすめの働き方
復職を検討している潜在看護師の皆さんにおすすめの働き方を3つ紹介します。
働き方①:短時間正社員
育児・介護休業法に基づく「短時間正社員制度」を活用し、正社員と同じ待遇で時短正社員として勤務する方法です。
育児などでフルタイム勤務が難しい場合、1日の所定労働時間を短くしたり、一週間あたりの勤務日数を減らしたりなど、個々に合わせた方法で勤務形態を調整することができます。
また、将来的にはフルタイム正社員への復帰も可能なので、長期的なキャリア形成を実現することができます。ただし、活用は3歳未満の子どもを養育している場合に限るなど条件があるので注意してください。
参考:「短時間正社員制度」導入・運用マニュアル – 厚生労働省
働き方②:パート・非常勤
厚生労働省の調査によると、復職を希望する潜在看護師の48%がパートや非常勤での復職を希望しています。パート・非常勤は、子どもを預けられる時間だけの短時間勤務や、家族の扶養内での勤務など、希望に合わせて比較的柔軟な働き方ができることがメリットです。
復職後の家事や育児と仕事の両立に不安を抱えている人は、まずはパートや非常勤の短時間勤務から身体を慣らし、ワークライフバランスの取れた働き方を模索するのも良いでしょう。
働き方③:新型コロナのワクチン接種など単発派遣
継続的な勤務が難しい人は、まずは単発のアルバイトや派遣から復帰するのもひとつの手段です。
単発のアルバイト業務には、訪問入浴やデイサービス、新型コロナウイルスのワクチン接種などがあります。自分で勤務日数を決めることができるので、より柔軟な働き方が可能です。
潜在看護師から看護師に復職するためのやることリスト
復職を決意したものの、何から取り組んだらいいかわからない人も多いでしょう。ここからは潜在看護師から復職するためにやるべきことを3つにわけて解説します。
やること①:復職の条件や課題を洗い出す
復職にあたって譲れない条件、クリアすべき課題を整理しましょう。以下は、その一例です。
- 勤務可能な日数や曜日
- 1日の就業可能時間
- 雇用形態
- 通勤時間
- 最低賃金
【復職の条件】
【クリアすべき課題】
- 子どもの預け先
- 子どもが病気になったときの預け先
- 子どもの送迎
- 家事の分担など家族や周囲のサポート
やること②:職場に求める条件を定める
次に①に加えて復職先に求める条件を整理し、優先順位をつけます。具体的には以下のとおりです。
- 希望する診療科
- 希望しない診療科
- 病棟、外来、訪問看護などの部署
- 病院規模
- 経営母体
- 勤務体制
- 勤務時間
- 福利厚生
- 復職時のサポート体制
- 子育て中の職員への支援
やること③:就活対策をする
求める条件や課題が整理できたら、就活対策を開始しましょう。
復職のためにできる4つの就活対策を紹介します。
求人情報を収集する
まずは求人情報を収集しましょう。潜在看護師の求人情報は次の方法で探すことができます。
- 就職・転職情報サイト
- 求人広告・求人情報誌
- ハローワーク(公共職業安定所)
- 都道府県のナースセンター(看護協会)
- 友人・知人による紹介
- 医療機関のホームページ
希望する求人情報に巡り会えなかった場合、②で洗い出した職場に求める条件について譲歩できる点はないか、優先順位を見直してみましょう。
最新の看護知識を勉強する
離職期間が長いほど、看護知識のアップデートが必要になります。各自治体やナースセンター主催のセミナーなどのほか、看護師・看護学生向けの情報サイトやアプリを活用し最新の知識を習得のもおすすめです。
復職支援制度を活用する
看護知識やスキルの確認ができる研修制度だけでなく、各自治体やナースセンターなどでは元潜在看護師との懇談会など潜在看護師の復職を支援するさまざまな制度を整えています。スキル面の不安とあわせて復職にむけた心の準備を進めておきましょう。
詳しくは各自治体やナースセンター、医療機関などのホームページを参考にしてください。
参考:東京都ナースプラザ
復職を検討する際はライフスタイルを考慮して
ブランクがあっても、看護師に復職することは可能です。紹介した潜在看護師向けの復職支援制度を活用しながら準備を整え、自分の希望の働き方が叶う復職を目指して就職活動をしてみましょう。
また、復職を検討する際にはライフスタイルを考慮した職場選択が重要です。復職したい理由や復職にあたって譲れない条件を整理し、入職後のギャップがないようにしましょう。
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この記事を書いた人小田あかり
- 大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。