大学院を卒業した看護師の働き方…
WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)とは?役割と働き方を紹介
公開日:2022/10/31
最終更新日:2024/1/12
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現在は「皮膚・排泄ケア認定看護師」と呼ばれているWOCナース。皮膚トラブルや創傷、ストーマや失禁から褥瘡などの知識や看護技術のスペシャリストです。WOCナースの役割や活躍から働き方にWOCナースになる方法についてまとめました。
目次
皮膚・創傷・排泄ケアのスペシャリスト「WOCナース」
褥瘡やスキンテアなどのスキントラブルの予防や治療、人工肛門や人工膀胱などを持つ患者の術前術後・退院後の生活支援、排尿や排便にトラブルを抱える患者ケアのスペシャリストとして活躍するWOCナース。専門知識と経験、高度な実践能力は多くの患者の皮膚トラブルを防ぎ回復に導いています。その専門性の高さから急性期から終末期、病院から在宅まで活躍の場は広がっています。
WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)とは
WOCナースとは日本看護協会が認定する認定看護師の1種です。創傷・オストミー・失禁看護の分野で高水準の看護実践ができる看護師のことで、救急看護とWOCナースは1995年の認定看護師制度開始当初から認定されている歴史のある資格です。
WOCナースの読み方と現在の名称
WOCナース は「ウオックナース」と読みます。WOCは「W:Wound(創傷)」「O:Ostomiy(人工肛門・人工膀胱)」「C:Continense(失禁)」の言葉の頭文字をとった造語です。2007年から名称が変更され現在は「皮膚・排泄ケア認定看護師」と呼ばれていますが、皮膚・排泄ケア認定看護師の資格を持つ看護師は、今でも自身を「WOCナース」と呼称することが多いようです。
WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)の役割と業務内容
WOCナースの「W」「O」「C」それぞれで担う役割と具体的な業務内容について、一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会は以下のように定義しています。
W:Wound(創傷)
担う役割 | 具体的な業務内容 |
---|---|
・皮膚トラブルや創傷の発生を予防できるよう、皮膚を健全に保つことができるスキンケアを実施する ・創傷治癒のために、生活環境や局所環境、寝床環境などを整えるケアを行う |
・洗浄剤や保湿剤、皮膚被膜材などのスキンケア用品を選択し、テープかぶれやドライスキンを予防するケアや発生した皮膚トラブルを改善するケアを提供する ・褥瘡のリスク判断や活動状況に合わせたマットレスを選択し、褥瘡発生を予防するケアを検討する ・褥瘡をはじめとする創傷治癒のため、医師と相談して治療計画を検討する |
O:Ostomiy(人工肛門・人工膀胱)
担う役割 | 具体的な業務内容 |
---|---|
・ストーマ造設を控える患者にストーマやスストーマケアについて情報提供を行う ・オストメイトのストーマ周囲皮膚の管理、ストーマ装具の選択、日常生活のアドバイス、精神的なサポートなどを行う |
・ストーマ造設を控える患者の不安軽減に努め術後の生活や管理に困らないストーマサイトマーキングを行う ・ストーマ造設後一人ひとりに合わせたストーマ装具を選択し、患者や家族に管理方法を指導する ・ストーマ周囲皮膚トラブルや装具の漏れの原因・対処方法を検討し実践する ・オストメイトが加齢に伴う変化に適応できるよう、ストーマ外来で定期的にフォローする |
C:Continense(失禁)
担う役割 | 具体的な業務内容 |
---|---|
・病気や手術後、加齢によって発生する尿・便失禁の改善を促すケアを行う ・失禁による皮膚トラブルの予防と改善のためのケアを実践する |
・尿・便失禁がある患者に適切な用品を選択し、日常生活の注意点を指導する ・尿・便失禁により排泄物が接触することで発症する皮膚炎の予防・改善方法を検討し実践する ・尿や便失禁の改善に効果がある骨盤底筋体操や肥満・便秘の改善などの日常生活の注意点を指導する |
【引用】皮膚・排泄ケア認定看護師とは 一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会
WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)になると給料はどう変わる?
WOCナースになると給料に変化はあるのでしょうか?日本看護協会が認定看護師の基本給や手当について調査した結果があります。
【参考】2012年 病院勤務の看護職の賃金に関する調査報告書(日本看護協会)
多くの認定看護師が、基本給は非資格者と変わらず、手当てもないと回答しています。一方で認定看護師手当がある病院の平均認定看護師手当の支給額は月額11,006円でした。
しかし、この調査が行われたのは約10年前。現在は認定看護師の需要も増え、認定看護師を雇用すると加算を算定できるなど診療報酬上でもメリットが多くなっています。社会的背景の変化に伴い、給与や手当てで配慮がなされていることが期待できます。
WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)になるには?資格取得の方法を解説
WOCナースになるには、現在の認定看護師教育制度に準じた特定行為研修を組み込んだカリキュラム(B課程)の受講が主流です。特定行為研修を組み込んでいないカリキュラム(A課程)は、2026年度で終了が決まっています。ここからは特定行為研修を組み込んだB課程でWOCナースになる方法を解説します。
認定看護師の資格取得まで
皮膚・排泄ケア認定看護師になるには、日本看護協会が認定した教育機関で指定カリキュラムを受講し認定審査に合格する必要があります。教育機関の入学には「資格要件」という日本看護協会が決めた規定を満たさなければなりません。さらに教育機関は全国に数カ所しかなく、皮膚・排泄ケア認定看護師になるのは狭き門となっています。
資格要件
日本看護協会看護研修学校の皮膚・排泄ケア学科を受験するためには、以下を全て満たしている必要があります。
- 高等学校もしくはこれに準ずる学校を卒業した者、または文部科学大臣の定めるところによりこれに準ずる学力があると認められた者
- 日本国の看護師免許を有する者
- 看護師免許を取得後、通算5年以上実務研修をしていること
- 学科別選抜要項に示す看護分野の実務研修を有すること
①通算3年以上、皮膚・排泄ケア領域における看護実績を有すること
②皮膚・排泄ケア領域における看護を5例以上担当した実績を有すること
ただし、創傷、ストーマ、排泄管理の事例を各1例以上含むこと
③現在、皮膚・排泄ケア領域における看護を行う臨床現場に勤務していることが望ましい
教育機関
皮膚・排泄ケア認定看護師の認定看護師教育課程は、東京都清瀬市にある日本看護協会看護研修学校で受講できます。募集人員は年間30名です。
その他にも静岡県立静岡がんセンター認定看護師教育課程で14名、京都橘大学看護教育センターで30名が受講できます。日本看護協会看護研修学校以外の教育機関は年度ごとに異なります。日本看護協会のホームページで最新情報を確認しましょう。
教育課程の目的
2023年度認定看護師教育課程募集要項では、皮膚・排泄ケア認定看護師の教育目的を以下のように定義しています。
- 皮膚・排泄ケア分野において、個人、家族及び集団に対して、高い臨床推論力と病態判 断力に基づき、熟練した看護技術及び知識を用いて水準の高い看護を実践できる能力を育成する
- 皮膚・排泄ケア分野において、看護実践を通して看護職に対し指導を行える能力を育成する
- 皮膚・排泄ケア分野において、看護職等に対しコンサルテーションを行える能力を育成する
- 皮膚・排泄ケア分野において、多職種と協働しチーム医療のキーパーソンとしての役割 を果たせる能力を育成する
【引用】2023年度認定看護師教育課程特定行為研修を組み込んでいる教育課程(B課程教育機関)募集要項 2022年7月1日改訂版
教育課程の受講を通じ、皮膚・排泄ケアのスペシャリストとしてさまざま問題を抱える患者に幅広い知識と技術、看護実践能力を発揮できる人材の育成が求められています。
学習内容
皮膚・排泄認定看護師になるためには、特定行為研修を含む合計848時間のカリキュラムを受講する必要があります。具体的な科目と学習時間の内訳は以下の通りです。
共通科目 380時間
科目 | 時間 | 科目 | 時間 |
---|---|---|---|
臨床病態生理学 | 40 | 疾病・臨床病態概論:状況別 | 15 |
臨床推論 | 45 | 医療安全学:医療倫理 | 15 |
臨床推論:医療面接 | 15 | 医療安全学:医療安全管理 | 15 |
フィジカルアセスメント:基礎 | 30 | チーム医療論(特定行為実践) | 15 |
フィジカルアセスメント:応用 | 30 | 特定行為実践 | 15 |
臨床薬剤学:薬物動態 | 15 | 指導 | 15 |
臨床薬剤学:薬理作用 | 15 | 相談 | 15 |
臨床薬剤学:薬物治療・管理 | 30 | 看護管理 | 15 |
疾病・臨床病態概論 | 40 |
認定看護分野専門科目 195時間
科目 | 時間 |
---|---|
皮膚・排泄ケア概論 | 15 |
皮膚のアセスメントとケア | 30 |
精神面のアセスメントとケア | 15 |
排便機能に破綻をきたす病態の理解と評価 | 15 |
排尿機能に破綻をきたす病態の理解と評価 | 15 |
ストーマの管理 | 30 |
排泄障害の管理 | 30 |
創傷のアセスメントと管理 | 40 |
特定行為研修区分別科目 68時間
科目 | 時間 |
---|---|
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 22 |
創傷管理関連 | 46 |
演習・実習 205時間
科目 | 時間 |
---|---|
総合演習 | 15 |
臨地実習(認定看護分野) | 150 |
実習(区分別科目) | 40 |
実習での経験症例数は特定行為研修区分別科目の実習で20症例、認定看護分野では創傷5症例、ストーマ5症例、排泄ケア3症例と規定されています。
【引用】2023年度認定看護師教育課程特定行為研修を組み込んでいる教育課程(B課程教育機関)募集要項 2022年7月1日改訂版
年間スケジュール
2023年度の年間スケジュールは以下が予定されています。特定行為研修が追加され学習内容が増えましたが、その多くを eラーニングによるオンライン授業で対応しています。指定教育機関の通学期間はA課程と同等で、働きながらでも通いやすいように配慮されています。
【引用】2023年度認定看護師教育課程特定行為研修を組み込んでいる教育課程(B課程教育機関)募集要項 2022年7月1日改訂版
資格取得の費用例
費用は受講する教育機関によって異なります。通学や実習のための宿泊・交通費、パソコン等の機器・通信費、教材費などは別に必要です。それぞれの教育機関ごとの費用は以下の通りです。
日本看護協会研修学校
認定看護師は日本看護協会の制度であり、看護協会会員は会員価格の受講料が適応されます。
入学検定料 | 50,000円 |
入学金 | 一般価格 75,000円 会員価格 50,000円 |
授業料 | 一般価格 1,611,000円(841,700円) 会員価格 1,017,000円(531,600円) |
*授業料のうち( )内は特定行為研修にかかる費用です。
【引用】2023年度認定看護師教育課程特定行為研修を組み込んでいる教育課程(B課程教育機関)募集要項 2022年7月1日改訂版
静岡県立静岡がんセンター認定看護師教育課程
入学検定料 | 53,000円 |
入学金 | 53,000円 |
授業料 | 978,000円(200,000円) |
*授業料のうち( )内は特定行為研修にかかる費用です。
【引用】認定看護師教育課程募集概要 静岡県立静岡がんセンター
京都橘大学
入学検定料 | 50,000円 |
入学金 | 50,000円 |
授業料 | 1,050,000円(350,000円) |
*授業料のうち( )内は特定行為研修にかかる費用です。
認定看護師については、下記の記事でも詳しく説明しているので参考にしてください。
WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)が特定行為研修を修了するとできること
WOCナースが特定行為研修を修了するとどのようなことが行えるのでしょうか。「特定行為研修」は、2020年度より認定看護師制度に組み込まれた新たな教育課程です。この研修を修了すると、従来は医師に報告・診察をしてもらった上で患者に提供していた医療行為を、医師の事前指示書に基づいていれば看護師が現場で判断して迅速に治療・処置が行えるようになります。
皮膚・排泄ケア認定看護師は創傷管理関連の特定行為研修を受講します。研修を終えると医師からの指示書をもとに創部の陰圧閉鎖療法の実施や壊死組織のデブリードマン、創部のドレーン抜去などが実践できます。
WOCナースの資格を活かした働き方
WOCナースの資格を活かせば、医療現場にとどまらず幅広い現場で活躍できます。勤務先の形態ごとに働き方の具体例を紹介します。
総合病院で働く
術後の創部管理やストーマ造設患者の術前術後ケア、セルフケア能力獲得のための支援を行います。また褥瘡や創傷に対する外科的処置や、治癒に導くケアを実践します。スキントラブルやスキンテア、褥瘡を発生させない介入やスタッフの看護ケア能力を高める教育・指導も行います。
クリニックで働く
クリニックでは失禁や褥瘡、スキントラブル・スキンテアに悩む患者の予防や改善のための介入を行います。また診療科によっては、オストメイトの在宅ケアの相談・支援をします。
訪問看護で働く
オストメイトだけでなく褥瘡やスキンテア・失禁などさまざまな問題を抱える患者が自宅で安心して暮らせるように、家族だけでなく訪問看護師や主治医を巻き込んだチーム医療のキーパーソンとして看護を展開します。
教員・講師で働く
講義や講習会、書籍などを通して、皮膚・排泄ケアに悩む医療者のスキルアップにつながるアセスメントや看護実践を指導します。
介護系施設で働く
介護系施設では褥瘡やスキンテア・失禁などの問題を抱えた高齢患者が多く入所しています。一人ひとりのリスク因子を把握した予防的介入と治癒を目指した医療・看護介入の検討と実践が求められます。他の分野と同様に看護師・介護士など、患者にかかわるスタッフへの教育も担当します。
WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)として看護師キャリアを形成する選択肢も
WOCナースは皮膚・創傷・排泄ケアのスペシャリストです。現在は「皮膚・排泄ケア認定看護師」とよばれ、医療の高度化や現場のニーズに対応するため、特定行為研修を終え高いスキルと知識を兼ね備えた皮膚・排泄認定看護師は年々増加しています。
スキントラブルやスキンテア、創傷や排泄に関する問題を抱えない患者はほとんどおらず、高齢化により患者数は増加傾向です。皮膚・排泄認定看護師はさまざまな医療現場で活躍が期待されているのです。
【参考】
皮膚・排泄ケア認定看護師について 一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会
京都橘大学学校教育研修センター 認定看護師教育課程 皮膚・排泄ケア分野 2022年度募集要項
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この記事を書いた人小田あかり
- 大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。